ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
怪我をさせて、大問題になって――……それで訴訟対策で弁護士である七生がここにいるんだ。
「あ、あの、わたしが落ちたあとどうなりました? 間宮さんにぶつかったんですよね? 大丈夫でしたか? 他にも怪我をさせてしまったひとがいるんじゃ……!」
あわてて七生に詰め寄ると、七生は落ち着けと文を諫めた。
「文以外に怪我をした人はいない。パーティーも終わり掛けだったし大した騒ぎにはならなかった。気にしなくていい」
責められるかと思ったのに、七生はむしろ慰めた。
七生はけが人ではないのか。シップの匂いは、打撲を手当てしているからだろうに。
記憶がとぎれているが、七生が救急車と叫んでいた事を思い出した。
救急車が呼ばれたのなら、それなりの騒ぎにはなったはず。
「七生が受け止めたらしいね。幼少期から合気道やってたのが良かったのかな。十段近く落ちたらしいのに、怪我が打撲だけなんてふたりとも強運だよ。ともかく、こいつも打撲だけだから心配しないで」
宝城がにこりとしながらフォローした。
「じゃあ、間宮さんはどうしてここに……あ、慰謝料でしたらちゃんと支払いますので、訴えるとかはやめてもらいたいんですけど。そういうのは精神的にかなりの負担が……それとも、設備を壊したりして、ホテル側から損害賠償でもありましたか?」
「――――さっきから何を言っているんだ?」
七生は怪訝になった。
何をとは、どういう事だろう。仕事でここにいるのではないのか。
「いったいどこに、自分の婚約者を訴えるやつがいるっていうんだ」
憮然とする七生に、文はパチリと瞬きをした。
「“婚約者”? だれが、だれの?」
驚きすぎて、ついため口をきいてしまう。
七生と宝城は一度向き合う。
七生は目線を合わせると、文の左手を取って指環の存在を認識させた。
「文が、俺の」
左手の薬指には、指環が収まっていた。
握っている七生の指にも同じデザインのものが嵌まっている。
文はそれを何度も交互に見てさらに目を見開いた。