ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~
「文が俺を好き」

「あの」

「やった……」

七生が呟いた。

(ーーーーえ?)

想像と返事が違う。
それは、歓喜の “やったあ” で間違いないだろうか。

可愛らしいセリフに反して顔が邪悪なのはなぜだろう。
悪寒が走るほど。とてつもなく悪い顔だ。

「思い出せないのが辛いんだね」

「ええ」

「刺激が必要と考えた」

「まぁ……」

繰り返される確認に顔を顰める。やっぱり馬鹿にしている。

「言いたいことはわかった。でもアパートに帰るのは却下。今後そんなことを言い出さないように、はやく解約してしまうとしよう。そして、文には違う刺激を提案する」

「はい?」

「自分の気持ちを確かめるのには、これが一番だよ」

言い終わると同時に七生の顔が迫った。ぶつかった唇に押され、ソファに倒れる。

「両思いなら問題ない。ちょっとステップアップ、してみようか」

七生は覆い被さった。
指先が顎をしゃくる。
のし掛かる重みを心地良く感じた。

「ずっと待っててもうキスだけだなんて限界なんだ。怖かったらそう言って……止めないけど、優しくする」

結局やめないのかという突っ込みは、する余地がなかった。
それどころじゃない。

(――――ああ、やっぱりわたしはうさぎだ)

狼に狙われたうさぎ。
捕食されそうな気分だった過去を、久しぶりに思いだす。
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