夢見吉示録
 私が自分に異常が起きたと思った原因は、当然先客の彼である。
 これまで見た目の中でも身体のとあるパーツが上原に似た人を見かけることはあった。
 しかし、この先客はまず身長が彼と同じくらいであった。そして特筆すべきは、雰囲気が似ていたことである。
 人は誰しもその人が醸し出す雰囲気を纏っているものだが、これまで雰囲気の似た人間は見たことがなかっった。
 そういうわけで、私はしばらく自分の脳と目を疑っていたのである。
 黒い髪に服や靴も全て黒のその人はコーヒーを片手に信号を待っていたようだが、車が来ていないのを確認すると信号は赤のまま横断歩道を渡っていった。
 信号無視をできない私は、信号が青になるのを待ってから横断歩道を渡った。
 横断歩道のすぐ先に私の住むアパートはある。
 アパートには歩道沿いにゴミ捨て場があり、いつもその前を通り過ぎてエントランスへ向かうのだが、私はまたしても驚くことになる。
 なんと先ほどの黒づくめの先客がアパートのゴミストッカーのうえにコーヒーを置いてのんびりとしているのである。
 (え……なぜよりによってうちの前?というかゴミ捨て場でコーヒーを飲むなんて……いや、もしかして本人?)
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