夢見吉示録
 その主将の名前を仮に「上原」としておこう。
 上原と私は一時確かに両思いだったのだが、色々と関係が拗れてしまい、一緒になることはないまま離れ離れになった。
 普通ならもう5年前になろうとしている思い出など忘れるものだが、私にとっては上原をはじめとした彼らとの思い出は特別で、忘れることなど到底できない記憶である。
 ついでに毎日が強烈すぎたせいか、色々な出来事が脳裏に焼きついてしまっている。
 最初に見た夢「少女の囁き」では、仮想の母校の廊下で、まさに野球部とサッカー部の男子生徒が輪をなし歌い、踊ったあの光景が見事に再現されていた。
 「……上原、オーオー、上原、オーオー……」
 サッカーの試合でサポーターたちが歌うチャントのような何かが耳の奥から聴こえてくる。
 (本当に元気ねこの人たちは……またやってる)
 この感情でさえ、経験の再現以外の何物でもなかった。
 私はただ人集(ひとだか)りに(あゆみ)を進めた。
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