サンタクロースに執着されました
翌朝早く、電話の着信で起こされた。
重い頭で画面を見て、ため息をついて出る。

「……はい」

柊木(ひいらぎ)さん?
休みの日に朝からすみません』

「いえ……」

電話の相手は上司である、夏目課長だった。

『今日、イベント予定だった桜川(さくらがわ)さんが、熱が出てこれないっていうんです。
ほんっっっとに悪いんですが、柊木さん、代わりに出てこれませんか?』

「え……」

課長のいうイベントとは、昨日の駅前広場とはまた別の場所でおこなわれているクリスマスマーケットのことだ。
私の勤める会社はそこで、ドイツ直輸入のクリスマスオーナメントの店を出していた。

店番の人間は持ち回りで、今日は夏目課長と桜川さんの番だ。
課長はクリスマスに仕事をしたいヤツなんていないだろうと上司らしく引き受けてくれたし、桜川さんも旦那とのクリスマスは明日でいいとイブの当番を引き受けてくれた。

しかし、熱が出たとなれば仕方ない。
仕事、しかも尊敬する上司の頼みとなれば断れるわけがない。

それにこれって、彼氏とのデートをキャンセルする口実にならないだろうか。
あんなことがあったあとだ、無視して行かないのがいいのはわかっている。
しかし、待っていると言われたら断れないのが私なのだ。
でも、仕事だったら?

「わかりました、行きます。
とりあえず会社に行ったらいいですか?」

『恩に着ます!
ありがとう、柊木さん。
じゃあ、会社で待ってますね』

「はい、わかりました」

話を終えて電話を切った。
これで、彼氏と顔をあわせないでいい。
クリスマスイブの休日出勤にこんなに感謝する日が来るなんて、誰が思うだろう?
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