サンタクロースに執着されました
準備をしてマンションを出る。
電車の中で彼氏に、仕事が入ったからいけないとメッセージを送った。

「ほんっっっとにすみません、柊木さん!」

出社したら先に来ていた夏目課長に拝まれた。
私より三つ年上の二十八歳、軽くパーマのかかったミドルヘアを七三分けにし、べっ甲調のボストン眼鏡をかける彼は、優しげなイケメンだ。
そんな彼に拝まれて、悪い気はしない。

「いえ、かまいませんから」

準備をして車で一緒に会社を出る。

「その。
……彼氏さんとか、よかったんですか?」

運転しながらちらりと、夏目課長が眼鏡の奥から私をうかがう。

「いいんです、もう」

今日はプロポーズされるかも、なんてうきうきしていた。
それが、こんな最悪な事態になるなんて想像もしない。

「あの。
……元気出して、くださいね。
なにがあったか知りませんが」

私の声が沈んでいたからか、控えめに課長が慰めてくれる。
私に彼氏がいるのは部署の人間のほとんどが知っているし、そんな私が今日の仕事を引き受けたのだ、だいたいの事情は察しているのかもしれない。

「ありがとうございます。
大丈夫ですから」

課長に空元気でもいいので、笑って返す。
今はなにも考えない。
今日は仕事に没頭しよう。
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