落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
「ディア。君に教えてもらったことは無駄にはしない。今から、リアナ嬢を庭園散策に誘おうと思う」
「至近距離で見つめ合うなんてキュンキュンしますね。頑張ってください!」
「そしてあわよくば散策の途中で彼女にキスを……」
「いやそれはダメでしょ! 今日の目標は恋人つなぎです!」
恋愛にはスローステップな殿下も、リアナ様を目の前にするとガルガルと貪欲な猛獣になるらしい。しかし、今日この場でリアナ様にキスをしてもらっては困るのだ。
残念ながらリアナ様は、アーノルト殿下の運命の相手ではない。あくまで現時点では。
「殿下、落ち着いてくださいね。恋愛と言うのは少しずつ少しずつ、じれじれモダモダと近付いて行くのが醍醐味です。いきなりキスだなんて、リアナ様もドン引きですよ」
「そういうものだろうか」
「そういうものです。しかも、まだリアナ様は婚約者『候補』ですから。過度な身体的接触は不可です!」
「分かった。クローディアがそう言うのなら仕方がない。その通りにしよう」
アーノルト殿下はそう言って頷くと、ティーパーティーの会場にいるリアナ様の方に向かって歩き始めた。突然現れた兜の男に一瞬会場が凍り付いたが、何とか皆アーノルト殿下だと気付いてくれたようだ。
何とかリアナ様の元に送り出すことができて、ふうっと全身の力が抜ける。
「はあぁ。恋人つなぎをする前に、何だかもう疲れちゃいました」
「いや、そもそもこんな茶番は必要なのか? キスくらい……少し唇が触れるくらいでも良いなら、リアナ嬢に直接頼めば早いのでは? 殿下の誕生日の夜までヒヤヒヤして待つのは、俺も耐えられない」
「まあ、それは色々と不都合があると言いますか……」
私がアーノルト殿下の本物の運命の相手です、なんて言えるわけがないのだから仕方がない。殿下にはリアナ様と心を通じ合わせて頂き、二人が運命の恋人同士になって下されば、それが一番良いのだ。
身分が低くて落ちこぼれ聖女の私なんかにキスされるのは、殿下だってできれば避けたいはずだから。
「あっ、殿下がリアナ様と一緒に散歩に出かけるみたいですよ! 後を尾行しましょう!」
「尾行じゃなくて、護衛な」
私はガイゼル様の袖を引っ張りながら、急いで殿下たちの後を追った。