落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
 しかもアーノルト殿下は兜を被ったままなのだ。あの状態でどうやって彼女にキスするつもりなのだろうか。
 私は兜に包まれたアーノルトの顔をまじまじと眺めた。


「殿下、とりあえず落ち着いてくださいね。恋愛と言うのは少しずつ少しずつ、じれじれモダモダと近付いて行くのが醍醐味じゃないですか。いきなりキスだなんて、リアナ様もドン引きですよ」
「そういうものだろうか」
「そういうものです。しかも、まだリアナ様は婚約者『候補』ですから。過度な身体的接触は不可です!」
「分かった。クローディアがそう言うのなら仕方がない。その通りにしよう」


 アーノルト殿下はそう言って頷くと、リアナ様の方に向かって歩き始めた。

(ふう……危なかった)

 私が止めなければ、アーノルト殿下は早速今日この場でリアナ様にキスをしていたに違いない。


「殿下のファーストキスを、そう簡単にリアナ様に捧げて頂くわけにはいかないんだから」


 私はアーノルト殿下の背中を目で追いながら、誰にも聞かれないようにぶつぶつと小さく呟いた。
 何を隠そうアーノルト殿下のファーストキスには、彼本人の命がかかっているのだ。下手にキスをすれば、命を落としてしまう可能性だってある。

(――それに、殿下のファーストキスを奪うのは私の役目になるかもしれないしね)

 爽やかな笑顔でリアナ様に向かって腕を差し出すアーノルト殿下を遠目に見ながら、私はひっそりと心の中で決意を固めるのだった。
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