落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
「殿下、申し訳ありません。少し手が痛いのですが」


 恋人つなぎに照れて耐え切れなくなった様子のリアナ様は、喉の奥から小さく声を絞り出す。


「あ、すまなかった。少し力を緩めよう」
「いえ、申し訳ありません」


 リアナ様は目を潤ませて下を向いている。
 この反応を見ていると、大分脈があるようにも見えるが、どうだろうか。

 初恋同士カップルの、甘酸っぱい手つなぎシーン。
 まあ贅沢を言えば、私たちの見ていない場所でやって欲しかった。

 今日の目標を達成して得意気なアーノルト殿下に、リアナ様は恐る恐る尋ねる。


「アーノルト殿下。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんでも聞いてくれ」
「……先ほどから聞きそびれていたのですが、なぜ兜を被っていらっしゃるのですか?」


 四人の間に、しばしの沈黙が流れる。


「リアナ嬢……怖がらせてしまい申し訳なかった。少し事情があってね」
「そうですか。詳しく教えて下さいと無理は申しませんが、雨に濡れていらっしゃいますので、兜が」
「……そうか。今兜を脱ぐよ。少し失礼」


 殿下はリアナ様と繋いでいた手を放すと、両手を兜に当ててぐっと持ち上げる。

 持ち上げた兜の中から現れたのは、細くてサラサラした美しいブロンドヘア。乱れた髪を整えるように首を少し左右に振ったあと、殿下は兜をテーブルに置いて顔を上げた。


(髪……すごく綺麗……)


 これまでは兜に隠されていたので、殿下の顔の中心あたりしか見たことがなかった。兜を脱いで髪の毛や顔全体を見るのは、私にとってはこれが初めてだ。


「……ディア? どうした?」


 ボーっと口を開けたまま固まっていた私に、殿下が心配そうに声をかける。


「何でも……ありません……」
「ああ、ディアは私が兜を取ったところを初めて見たんだったね。こんな顔の男だ。これからもよろしく」
「あっ……はい」


 いつの間にか雨は上がっていた。
 雲の間から差した夕日を反射して、殿下の金の髪がキラキラと輝いた。

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