落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】

第13話 責任感の向かう先

「あの、それでは今ここでキスしたらいいのではないでしょうか? それとも何かできない理由があるのでしょうか……?」


 私の実も蓋もない質問にアーノルト殿下は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに首を小さく横に振った。首の動きに合わせて、兜がシャランシャランと小さな金属音を立てる。


「ローズマリー嬢はこのイングリス王国にとって欠かせない貴重な人材だ。将来筆頭聖女となる可能性だってある。私のせいでローズマリー嬢の道を変えさせるわけにはいかない」
「道を変えるってどういうことでしょうか? 一回チュッとするくらいなら、別に何の問題もないのでは?」


 私の方だって、好き好んで他人同士のキスを目の前で拝む趣味はない。しかし、今この場ですぐに呪いが解ける方法があるのなら、さっさと終わらせてしまえばよいではないか。
 なぜ殿下は解呪方法を知りながら、わざわざ私の占い屋まで足を運んでまで運命の相手を探しに来たのだろう。

 首を傾げる私に、アーノルト殿下は深刻そうな眼差しを向ける。


「私がローズマリー嬢とキスをした方がよいと?」
「ええ……。だって、そうすれば即解決なんですよね?」
「ディア。一度キスをした女性を、私がそのまま何もなかったかのように放っておくことができると思うか? 私はファーストキスを捧げた女性を、私の命尽きるまで傍において大切にする使命があると思っている」
「……真面目か!」


 ついついツッコミを入れてしまったが、兜男は至極大真面目である。


「アーノルト殿下。それはさすがに責任感の方向がずれています。確かに殿下にとってもローズマリー様にとっても記念すべきファーストキスになるかもしれませんが、命には代えられないでしょう? 殿下はこの国を背負って立つお方ですよ?」
「……それはよく分かっている。しかし、私の呪いのせいでローズマリー嬢に迷惑をかけるわけにはいかない」
「でも、私は殿下に死んでほしくありません。ローズマリー様だって同じお気持ちだと思いますよ」


 私の横で、ローズマリー様は目に涙を溜めて何度も頷いている。
 幼い頃からずっと、神殿で厳しい教育に耐えて来たローズマリー様のことだ。男性とのキスどころか恋愛の経験もないだろう。
 そんなローズマリー様が、殿下の命を助けるためにキスをしても良いと仰っているのだ。

 しかし私たちがいくら説得しても、結局殿下は最後まで折れようとはしなかった。
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