落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】

第14話 帰りの馬車で

 神殿からの帰りの馬車に乗る直前、アーノルト殿下にだけ話したいことがあると言って、ローズマリー様が殿下を引き留めた。
 おかげで私は二人の話が終わるまで、馬車の中で待ちぼうけだ。

(それにしても、アーノルト殿下の呪いの解呪方法が他にもあったなんて――)

 私がアーノルト殿下の立場なら、迷わずすぐにローズマリー様とのキスを選択する。わざわざ運命の相手を探して遠くの田舎街まで出かけたり、いつ結ばれるのかも分からない女性を追いかけたりもしない。

 ファーストキスを捧げた相手を、一生そばに置いて大切にしたいだなんて。アーノルト殿下は、一体どれだけ真面目で堅物なんだろう。
 でも、だからこそ殿下はああやって兜を被ってまで、慎重にファーストキスの相手を選んでいるのだ。

 最悪の場合は私がこっそり殿下の寝室に忍び込んで唇を奪ってやろうと思っていたが、この調子ではそれもかなり難しそうな気がしてきた。
 ローズマリー様という確実に解呪できる存在が現れたのだし、私がわざわざ殿下にキスするために殿下の部屋に忍び込むなんて危険すぎる。万が一、殿下に気付かれてしまったら……

(キスの責任を取って、ディアと結婚する! なんて言いかねないもんね。真面目な殿下のことだから)


「ディア、待たせて済まなかった。出発しよう」


 扉が開き、ローズマリー様との話を終えた殿下が馬車に乗り込んできた。
 王城に戻るために走り始めた馬車の中で、殿下は「そう言えば」と言って嫌な話題を切り出した。


「ディアは神殿を追い出されたのか?」
「へっ?! あ、ああ……ローズマリー様が仰ってたからバレてしまいましたね。黙っていて申し訳ありませんでした」
「黙っていたことを咎めているわけじゃない。ただ、心配しているんだ」
「……ありがとうございます。私は聖女候補生の中でも落ちこぼれだったんです。神殿への就職活動に失敗して、恋占い屋を始めたんですよ」


 ペロッと舌を出しおどけた感じで返事をしたが、殿下には自虐的な冗談は通じなかったようだ。憐みの目で私を見ている。
< 34 / 105 >

この作品をシェア

pagetop