落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
――『初めてのキスは難しいものです。あなたなら、いつどこでキスをしますか?』
「殿下、どうでしょう」
「誕生日の夜、庭園におびき出して実行にうつそう」
「なるほど。おびき出すというより、堂々とお誘いしたらいかがでしょうか。では次」
――『いざキスをする時、あなたと相手はどれくらいの距離に立っているでしょうか。向かい合っているなら、正面からキスをすることになりますね。もし横に並んで座っているなら、相手にこちらを向いてもらわねばなりません』
「正面からまともに攻めていては、相手に私の動きが丸見えだ。背後もしくは横から切り込むのが良いだろう」
「殿下、本当にキスをしようとしてます? 何かの試合と勘違いなさってませんか?」
「一世一代の命をかけた勝負だからな」
――『目を閉じますか、開いたままですか」
「これは……難しいな」
「えっ?! 目は閉じるでしょ!」
「いや。目を閉じてしまうと、狙いを外すリスクがある。確実にターゲットの位置を捉え、狭い範囲を確実に狙わねばならない。こちらが目を閉じている間にターゲットが移動するケースも頭に入れておかねば」
「いや、だから」
(……キスするのって、こんなに物騒な感じなんだっけ?)
私もキスどころか恋愛経験もないから分からないのだが、普段みんなキスするときにここまで考えて動いているのだろうか。
――『ここまで読んで、キス未経験者の皆さんは驚いているでしょう。いざキスする瞬間に、ここまで頭で考えながら動けるだろうか、と』
「そうそう、その通りですね」
「事前のシミュレーションとトレーニングがいかに大事かということが分かる、良い教材だな」
――『だからこそ、ファーストキスは勢いが九割なのです。一番大切なのは、キスをする場所でも、相手との距離でも、目を開けるか閉じるかでもありません。あなたの心です。相手のことを想う気持ちがあふれたら、そのほかのことなど何も目に入らず、いつの間にかキスをしていることでしょう』
「……心か」
「心ですね、大切なのは。殿下は幼い頃からリアナ様のことをずっと想っていらっしゃったのですから、もうファーストキスの九割は成功したも同然ですね」
「私が、リアナ嬢のことを……? そうか、そう思うか」
どことなく寂しそうな笑顔の殿下が気になったけれど、私はキスの練習台になってくれる人を探そうと、椅子から立ち上がった。