落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
「アーノルト殿下だけではなく、俺も幼い頃からリアナ嬢のことは良く知っているつもりです。貴女は他人に嫌がらせをするような方ではないはずです」
「あら、私は聖人君子ではありませんわよ。想いを寄せる方の近くにライバルがいれば、妬む気持ちも生まれます」
「あなたはそこまでして殿下の婚約者になりたいのですか?」
「……なりたい、ですわ」
「どうしても?」
「はい」
「じゃあ他人に嫌がらせなんてするな。いずれにしてもアーノルト殿下は、君を婚約者にするつもりなんだから」
柱の陰から二人の方を覗くと、ガイゼル様は苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出している。離れたところからでも分かるほどに拳に力が入り、わなわなと震えていた。
アーノルト殿下だけではなくガイゼル様もまた、リアナ様の幼馴染なのだ。大切な幼馴染が他人に嫌がらせをしていると聞けば、ガイゼル様もお辛いに違いない。
敬語を使わない最後の言葉は、主人であるアーノルト殿下の婚約者候補としてのリアナ様に対しての言葉ではなさそうだ。リアナ様の幼馴染という立場のガイゼル様から出た本音だろう。
私の方に背を向けているリアナ様の表情は分からないが、二人の間にはぴんと張りつめた空気が流れていた。
「……ガイゼル様もアーノルト殿下も、私のことを信じて下さっていたのですね。私の心に嫉妬の気持ちがないと言えば嘘になりますが、私は神に誓って他人に嫌がらせなどしておりません。クローディア様に対しても、です」
「やはりそうですか。では何故もっと強く否定しないのです? 国王陛下から貴女への心象が悪くなれば、アーノルト殿下との婚約の話だってどうなることか」
「……あら。ガイゼル様は、私にこのまま殿下の婚約者になって欲しいんですの?」
リアナ様は数歩進んでガイゼル様の横に立つと、ガイゼル様の顔を見上げた。
「リアナ嬢には……アーノルト殿下の婚約者になってもらわないと困る」
その言葉を聞いて、リアナ様は何も言わずに立ち去った。
リアナ様の方を振り返ることもなく立ち尽くすガイゼル様を見て、私は全てを察した。
(そうか、ガイゼル様はリアナ様のことを想っていらっしゃったんだわ)
主人であるアーノルト殿下と同じ女性に惹かれてしまったガイゼル様。しかも、殿下とリアナ様との恋の成就が、殿下の命にまで関わって来るこの状況で、ガイゼル様がご自分の個人的な恋愛感情を表に出せるわけがない。
何事もなかったかのようにガイゼル様に声をかける気持ちにもなれず、私はそのまま回り道をして逃げるように城門に向かった。
「あら、私は聖人君子ではありませんわよ。想いを寄せる方の近くにライバルがいれば、妬む気持ちも生まれます」
「あなたはそこまでして殿下の婚約者になりたいのですか?」
「……なりたい、ですわ」
「どうしても?」
「はい」
「じゃあ他人に嫌がらせなんてするな。いずれにしてもアーノルト殿下は、君を婚約者にするつもりなんだから」
柱の陰から二人の方を覗くと、ガイゼル様は苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出している。離れたところからでも分かるほどに拳に力が入り、わなわなと震えていた。
アーノルト殿下だけではなくガイゼル様もまた、リアナ様の幼馴染なのだ。大切な幼馴染が他人に嫌がらせをしていると聞けば、ガイゼル様もお辛いに違いない。
敬語を使わない最後の言葉は、主人であるアーノルト殿下の婚約者候補としてのリアナ様に対しての言葉ではなさそうだ。リアナ様の幼馴染という立場のガイゼル様から出た本音だろう。
私の方に背を向けているリアナ様の表情は分からないが、二人の間にはぴんと張りつめた空気が流れていた。
「……ガイゼル様もアーノルト殿下も、私のことを信じて下さっていたのですね。私の心に嫉妬の気持ちがないと言えば嘘になりますが、私は神に誓って他人に嫌がらせなどしておりません。クローディア様に対しても、です」
「やはりそうですか。では何故もっと強く否定しないのです? 国王陛下から貴女への心象が悪くなれば、アーノルト殿下との婚約の話だってどうなることか」
「……あら。ガイゼル様は、私にこのまま殿下の婚約者になって欲しいんですの?」
リアナ様は数歩進んでガイゼル様の横に立つと、ガイゼル様の顔を見上げた。
「リアナ嬢には……アーノルト殿下の婚約者になってもらわないと困る」
その言葉を聞いて、リアナ様は何も言わずに立ち去った。
リアナ様の方を振り返ることもなく立ち尽くすガイゼル様を見て、私は全てを察した。
(そうか、ガイゼル様はリアナ様のことを想っていらっしゃったんだわ)
主人であるアーノルト殿下と同じ女性に惹かれてしまったガイゼル様。しかも、殿下とリアナ様との恋の成就が、殿下の命にまで関わって来るこの状況で、ガイゼル様がご自分の個人的な恋愛感情を表に出せるわけがない。
何事もなかったかのようにガイゼル様に声をかける気持ちにもなれず、私はそのまま回り道をして逃げるように城門に向かった。