落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
 ローズマリー様は天を仰ぎ、厚い雲の隙間から顔を出した月に向かって十字を切った。


「なぜなの……クローディア……」
「ローズマリー様。ご心配をおかけして申し訳ありません。明日の夜、もう一度アーノルト殿下の前で占いをします。殿下の運命の相手が本当に私なのかどうかは、明日の夜に再確認したいと思っています。でも……」
「でも、何?」


 ガイゼル様とリアナ様の話を立ち聞きした限り、アーノルト殿下はリアナ様の潔白を信じていらっしゃるようだ。しかし、父親のヘイズ侯爵までが呼ばれて国王陛下の前で申し開きをさせられるという状況は、リアナ様にとってもヘイズ侯爵家にとっても良い話ではない。
 まずはリアナ様の名誉を回復することが先決で、アーノルト殿下とリアナ様の距離を詰めるどころの状況ではなくなっている。

 今この状態で、アーノルト殿下の運命の相手がリアナ様に変わるなんてことは、少々考えづらい。

「……ローズマリー様。多分、殿下の運命の相手は私です。イングリス神の神託は、この二週間で変わることはないと思います。だからこそローズマリー様にお願いです。もし明日の占いの結果、殿下の運命の相手が私のままだったら、ローズマリー様が殿下にキスをして下さいませんか」
「ええ、もちろんよ。元々アーノルト殿下の解呪のためにキスして下さいと申し出たのは私の方だもの。明日改めて占う必要もないくらいだわ」
「アーノルト殿下は、ファーストキスを捧げた方と添い遂げようと考えてらっしゃいます。だから、ファーストキスの相手はリアナ様だと殿下に思い込んで頂くのが最善策かと」


 ローズマリー様の眉がぴくりと引きつった。
 私の相談の意図が、ローズマリー様にも伝わったのだろう。


「……分かったわ。つまり実際にキスをするのは私だけれど、殿下が私のことをリアナだと勘違いすればいいのね。上手くやればできるわ、私たちは双子だもの」
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