落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】

第29話 事故のあと

「……お目覚めですか。クローディア様」


 瞼の向こうに光を感じてゆっくりと目を開けると、近くから女性の声がする。見慣れない天井、どこか懐かしいようなお香の匂い。

 一体ここはどこなのか、私は今までどうしていたのか。起きたばかりの頭を何とか働かせて考えてみるが、さっぱり見当がつかない。


「クローディア様、体は痛みますか? かなりお怪我をなさっていますので」


 やっと鮮明になってきた視界の端に映ったのは、リアナ・ヘイズ侯爵令嬢だった。ますます自分の状況が分からなくなり、体を起こそうとしてみるが……あちこちが痛くてすぐに断念する。

 背中や腕がズキズキと痛み、足元に目をやると、ところどころに包帯が巻かれている。


「……リアナ様。私は一体どうしてしまったんでしょう。ここはどこなのでしょうか?」
「しっかりお話できるようで安心致しましたわ。イングリス山で土砂崩れがあって、クローディア様も巻き込まれたんです。アーノルト殿下が救助なさって、イングリス山に近い我が屋敷に駆けこんで来られたんですのよ」
「それで、リアナ様が私を看病して下さったんですか? ということは、ここはヘイズ侯爵様のお屋敷……それは、何とお礼を申し上げたら良いのか……本当にありがとうございました」


(そうだわ、確かローズマリー様のランプがないと山を降りられないと思って、急いで洞窟の中に取りに戻ったんだった。その時に天井が崩れてきて……)

 少しずつ記憶が戻って来たところで、私はハッと気が付いた。
 あの土砂崩れの時、アーノルト殿下が私を追って洞窟に入ろうとしていなかっただろうか。
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