落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
「リアナ様! 殿下は、アーノルト殿下はご無事ですか? 洞窟が崩れた時に殿下が……!」
「ご安心下さい。多少お怪我をなさってますが、殿下はご無事ですよ」
「良かった……それと、今日は何日ですか? 殿下の誕生日はまだ来ていませんよね?!」
ベッドから起き上がろうとする私の肩をリアナ様がそっと押し、再びベッドに寝かされた。
もしも私が何日も気を失っていたんだとしたら、もう殿下の誕生日は目前かもしれない。解呪のタイムリミットまで、あとどれくらい残っているだろうか。気持ちが急いた私は、椅子に座ろうとするリアナ様の腕に縋った。
「落ち着いて下さい、クローディア様。怪我をなさっているのですから。殿下のお誕生日は来週ですが、そのお怪我だと出席なさらない方がよろしいですわよ」
「来週? ……良かった……間に合った」
必死でつかんでいたリアナ様のドレスの袖を放すと、私は全身の力が抜けたようにへなへなと力なくベッドに身を沈めた。
リアナ様は「少しお待ちくださいね」と言って部屋の扉を開けて外にいた人に何かを伝えると、私のベッドの横にある椅子まで戻って来て腰かける。
「アーノルト殿下は土砂崩れに巻き込まれたクローディア様を助けようと、必死で土砂をかき分けて救助なさったようです」
「殿下が、私を?」
「ええ。お二人のお帰りが遅いので、ガイゼル様がイングリス山に様子を見に行かれました。ガイゼル様が到着した時には、ちょうど殿下がクローディア様を土砂から助け出したところだったそうです」
丁寧で落ち着いた口調とは裏腹に、リアナ様の目はいつものように冷たい。ご自分の夫になるかもしれない相手が、別の女性を助けようとして怪我をした。そんな状況では、心穏やかにいられるはずがない。
リアナ様の両瞳からは静かな怒りが滲み出ていた。
(それなのに、こうして私のことを看病して下さっている。やはりリアナ様は冷たく見えても、未来の王太子妃として申し分ない慈愛に満ちた方だわ)
リアナ様が他のご令嬢に嫌がらせをしていると聞いた時は不安だったが、きっとそれも何かの誤解だ。令嬢への嫌がらせも、私を池から突き落としたのも、きっとリアナ様ではない。
根拠はないが、私にはそうとしか思えなかった。
「リアナ様。本当に何から何まで申し訳ありませんでした。私はすぐに神殿に戻ります」
「そのお怪我では無理ですよ。本当に構わないのでここで養生なさって。それに、先ほどアーノルト殿下をお呼びしましたから、このままお待ちを――」
バタバタという足音の後、私たちのいる部屋の扉が吹っ飛ぶのではないかというほど乱暴に開かれた。
「――ディア!」
大声で私の名を呼びながら入ってきたのは、両腕や頭に包帯をぐるぐると巻かれた、痛々しい姿のアーノルト殿下だった。
「ご安心下さい。多少お怪我をなさってますが、殿下はご無事ですよ」
「良かった……それと、今日は何日ですか? 殿下の誕生日はまだ来ていませんよね?!」
ベッドから起き上がろうとする私の肩をリアナ様がそっと押し、再びベッドに寝かされた。
もしも私が何日も気を失っていたんだとしたら、もう殿下の誕生日は目前かもしれない。解呪のタイムリミットまで、あとどれくらい残っているだろうか。気持ちが急いた私は、椅子に座ろうとするリアナ様の腕に縋った。
「落ち着いて下さい、クローディア様。怪我をなさっているのですから。殿下のお誕生日は来週ですが、そのお怪我だと出席なさらない方がよろしいですわよ」
「来週? ……良かった……間に合った」
必死でつかんでいたリアナ様のドレスの袖を放すと、私は全身の力が抜けたようにへなへなと力なくベッドに身を沈めた。
リアナ様は「少しお待ちくださいね」と言って部屋の扉を開けて外にいた人に何かを伝えると、私のベッドの横にある椅子まで戻って来て腰かける。
「アーノルト殿下は土砂崩れに巻き込まれたクローディア様を助けようと、必死で土砂をかき分けて救助なさったようです」
「殿下が、私を?」
「ええ。お二人のお帰りが遅いので、ガイゼル様がイングリス山に様子を見に行かれました。ガイゼル様が到着した時には、ちょうど殿下がクローディア様を土砂から助け出したところだったそうです」
丁寧で落ち着いた口調とは裏腹に、リアナ様の目はいつものように冷たい。ご自分の夫になるかもしれない相手が、別の女性を助けようとして怪我をした。そんな状況では、心穏やかにいられるはずがない。
リアナ様の両瞳からは静かな怒りが滲み出ていた。
(それなのに、こうして私のことを看病して下さっている。やはりリアナ様は冷たく見えても、未来の王太子妃として申し分ない慈愛に満ちた方だわ)
リアナ様が他のご令嬢に嫌がらせをしていると聞いた時は不安だったが、きっとそれも何かの誤解だ。令嬢への嫌がらせも、私を池から突き落としたのも、きっとリアナ様ではない。
根拠はないが、私にはそうとしか思えなかった。
「リアナ様。本当に何から何まで申し訳ありませんでした。私はすぐに神殿に戻ります」
「そのお怪我では無理ですよ。本当に構わないのでここで養生なさって。それに、先ほどアーノルト殿下をお呼びしましたから、このままお待ちを――」
バタバタという足音の後、私たちのいる部屋の扉が吹っ飛ぶのではないかというほど乱暴に開かれた。
「――ディア!」
大声で私の名を呼びながら入ってきたのは、両腕や頭に包帯をぐるぐると巻かれた、痛々しい姿のアーノルト殿下だった。