落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
 なぜファーストキスなのだろう。
 ファーストに拘るのだろう。

 ファーストキスじゃないと駄目だなんて、解呪のチャンスはたった一度しかないと言っているようなものだ。

 私は地面に膝をついたまま、天を仰ぐ。

(運命の相手が途中で変わるという可能性はあるかしら……)

 アーノルト殿下が呪い殺される日まで、残り一月。その間に殿下とリアナ様の二人が仲を深め、お互いに心の底から愛し合うようになれば、運命の相手がリアナ様に変わるなんてことは?

(やってみる価値はありそうだよね)

 一月後、また満月の夜はやって来る。
 その時点で運命の相手が変わらず私のままだったら。

(その時は、殿下が寝ている隙でも狙って、こっそり私がファーストキスをチュッと奪っておけばいいんじゃないの?)

 できる気がする。
 なんだかんだ口実を付けて、アーノルト殿下の近くにいることができれば。

 もう一度姿勢を整えると、私は澄まし顔で言った。


「アーノルト殿下」
「どうした? クローディア嬢。まだ気分が悪いのか?」
「リアナ様が運命のお相手とは言え、恋愛というのは一筋縄ではいかないのが常と言うもの。一月という短い期間でリアナ様をモノにするには、相当な恋愛スキルが必要です」
「恋愛スキル……か……。私はこれまで、一度たりとも女性と親密な関係になったことがない。私一人でリアナ嬢とファーストキスを達成するまでに至れるだろうか」
「私がお手伝いします!」


 アーノルト殿下はその言葉に一瞬驚いたが、口をきゅっと結び頷いた。


「手伝ってくれるのか」
「はい! これでも私は恋占い師の端くれ。男女の色恋沙汰については誰よりもプロフェッショナルです。必ずや殿下の恋を成就させて見せます!」


 万が一の場合は、私が貴方の唇を頂きますが。
 ……とは言えない。

(実は私も恋愛経験ゼロだけど、恋愛小説だけは誰よりも読んだし。きっと何とかなるはずよ!)

 満月の下、アーノルト殿下と私はがっちりと握手を交わした。
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