落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
「殿下の命が……命がかかっているんです」
「命……? 命がかかっているってどういうことなのですか? それに、アーノルト殿下は私なんて必要としていません。別に私と婚約しなくたって、アーノルト殿下にはローズマリーがいるじゃないの!」


(え? ローズマリー様は……貴女でしょ?)

 廊下の角から顔を出して、ガイゼル様の向こうにいる女性を確認する。黒髪で、聖女の服を着て、間違いなくローズマリー様のお顔だ。

(ローズマリー様はここにいて、殿下と一緒に広間にいるのはリアナ様……だよね?)

 ローズマリー様はガイゼル様の腕を振り切って、続ける。


「私だってアーノルト殿下と婚約するために努力したわ。自分の気持ちを押し殺して政略結婚を受け入れようと思った。でも仕方ないじゃない。もうこれ以上耐えられないんだもの! 放っておいて!」
「待ってください! リアナ嬢!」


(――リアナ嬢? ガイゼル様は今、リアナ嬢と言った?)

 ローズマリー様に見えるあの人は、本当はリアナ様なのだろうか? そう考えた瞬間、先ほど会ったリアナ様の姿に感じた違和感を思い出した。


「リアナ様……いつもより動きが固いと思ったのよね。仮面を付けていたから、顔も全ては見えなかったし……」


 つまり、今アーノルト殿下が一緒にいるのはリアナ様ではなくローズマリー様ということか。

(このままだとどうなってしまう?)

 私は一人で廊下の角に身を隠しながら、頭を抱える。

 アーノルト殿下は今晩、リアナ様との婚約発表をする。
 そして、髪色を銀に変えてリアナ様に成りすましたローズマリー様に、ファーストキスを捧げる。

 もしそうなったとしても、アーノルト殿下の呪いは解くことができる。
 でも、殿下はリアナ様を婚約者に選んだのだ。リアナ様という運命の相手がいながらローズマリー様にキスをしてしまったことを、殿下はずっと思い悩むだろう。

 最悪の場合は自分の心を押し殺し、責任を取ってローズマリー様と結婚するとまで言い出しかねない。

(――それでいいの? 殿下の、リアナ様への恋心は?)

 ガイゼル様と言い合いをしていたリアナ様は、泣きながら走り去ろうとしていた。私は思わず飛び出して、リアナ様に向かって「待って!」と大声を出していた。

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