落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化】
――ゴーン
残りの鐘は何回だろう。
アーノルト殿下の命が消えるまで、あとどれくらい時間が残されているのだろう。
私が時計台の方を振り返るためにローズマリー様から目を離した瞬間。
「…………ごめんなさい」
ローズマリー様の口から、ポツリと小さく謝罪の言葉がこぼれた。
すると、その言葉をきっかけに黒いモヤは空中にはじけて消え、ローズマリー様はポロポロと涙をこぼしながら力なく地面に倒れこむ。
「ローズマリー様?」
「……十年前にも私はこうして自分の気持ちがコントロールできなくなった。本当はみんなに謝りたいと思っていたの。でも、あまりにもたくさんの人に申し訳ないことをして……」
「ローズマリー様、分かって頂けたのですね……! でも、今は時間がありません。今のあなたがやらないといけないことはただ一つ、早く殿下の呪いを解いて下さい!」
――ゴーン
泣き崩れたローズマリー様の腕を引っ張って何とか体を起こそうとするが、ローズマリー様は力が抜け切っていて立ち上がれない。
「……早くっ! お願いです、ローズマリー様! 殿下の呪いを解いてくれないと、殿下が死んじゃう!」
「無理よ……殿下が運命の人にファーストキスを捧げるか、呪いをかけた張本人である私が消えるか。それしか方法はない。簡単に解呪できないように、とても複雑な呪いをかけたんだもの」
(――え?)
それでは結局振り出しに戻っただけだ。
ぐいぐいと腕を引っ張り、必死の思いでローズマリー様を立ち上がらせる。
ローズマリー様だけではなく、私の顔も既に涙でぐちゃぐちゃだ。
(殿下に生きて欲しい――! どうしたらいいの?)
私はアーノルト殿下の方を振り返る。
アーノルト殿下は驚くほど穏やかな顔で、私の方に向かって微笑んだ。
そして呪詛文字が刻まれた胸に手を当て、そっと目を閉じた。
「……殿下?」
十二回目の鐘の音が鳴る。
そしてその鐘の音は、満月の夜空に溶けて消えて行った。