英玲奈様は青い瞳に恋してる
その声に、振り返れないまま、私は、慌てて涙を拭った。革靴の音は、真っ直ぐにこちらにやってくる。

「英玲奈?どうした?また振られたのか?」

「そうよ!フラれたの!ほっといてよ!」

私は、泣いた事がバレないように、麗夜の顔を見ずに答える。

「誰に?」

(誰に?そんなの……決まってるじゃないっ)

「麗夜には、言いたくないからっ!あっちいって!」

どうせ麗夜は、今からあの可愛い営業アシスタントとデートなのだから。こんな惨めな私を見ないで、さっさとどこかに行って欲しい。

「何で捨てたんだい?」

麗夜の掌が私の頭にポンと乗せられて、見れば、麗夜のもう片方の掌には、さっき捨てた紙袋が握られている。

「……何で……それ……」

麗夜が、月明かりの下で、唇を持ち上げた。

「さっき、営業アシスタントの女の子と、話してたら、僅かにピンヒールの足音がしてね。てっきり英玲奈かと思ったけど、その後もなかなか僕の部屋来ないから、探してた。その時、ゴミ箱の中から見つけたんだ」

「……要らなくなったから捨てたの!」

「僕の為に作ったのに?」

麗夜が、困ったような顔をしたながら、私の(かじか)んだ掌を掴むと、白い吐息をかけた。

冷え切っていた指先は、急速に血液が巡るようにカッと熱くなる。
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