少女達の青春群像 ~途切れなかった絆~
舞や歩と会う約束している日は、まだまだ正月気分が抜けない1月4日。まず舞に家まで迎えに来てもらってから、一緒に歩のいる柏原市に向かうことになっている。
舞は就職してからすぐに車を購入した。これがまたオートマではなくてミッションだったので、夏には怖い目に遭ったことがある。響歌が帰省して2人で海辺のドライブをしたのだが、坂道発進を失敗して危うく後ろの車にぶつかりかけたのだ。
相変わらず不器用な舞だったが、それでもなんとか車の運転に慣れていった。今回も不安がる響歌を説得して、柏原市まで自分が運転することにした。響歌も歩も運転免許はあるが、自分の車は持っていない。だから自分が車を出すと意気込んでいた。
2人共、不安ではあったが、その好意はありがたかったので舞にお任せすることにした。
柏原市に向かう車の中ではサークルについて話し合っていた。高校卒業したら皆離れ離れになるのでもう終わりにしようかという話も出たことがあったのだが、その少し前に男子バレーがオリンピック出場権を逃してしまった。その時と重なってしまい、出場権を逃したからバレー熱が冷めて止めたと思われそうだったので当分続けることにしたのだ。高校卒業してはい、終了!だと、会員の皆様に失礼になると思ったのもある。
だから不便にはなったが、今でも活動は継続中だ。
そんな打ち合わせをしていたら、あっという間に柏原市に到着。歩と合流した。
今の時間は午前11時。少し早いが、お昼ご飯を食べにお店に行くのもいいかもしれない。
そんなことを響歌が思っていると、歩の口から予想外な言葉が出た。
「ねぇ、これからトミオムに行かない?」
『トミオムに?』
久しぶりに舞と響歌がハモった。
トミオムとは略した言い方で、正式には『トミーのオムライス』という洋食店だ。店名にオムライスという名がついている通りその店の売りはオムライスだが、それ以外の料理にも定評がある。
「そこだと気軽に過ごせるし、ドリンクバーもあるから長居できるけどさ。なんでまたトミオムに行く気になったの?」
気にし過ぎかもしれないが、響歌は訊ねずにはいられなかった。柏原にはその他にも食事するところは沢山ある。その中で歩がはっきり主張するのは何かあるんじゃないか思ったのだ。
「実は12時からトミオムで高校の小同窓会があるの。私も昨日、乙羽ちゃんから聞いたばかりなんだけど、できれば何人か誘って来て欲しいって言われたんだ」
歩の言う乙羽ちゃんとは、歩と同じ看護学校に行っている元比良木高生だ。高校の時は歩と同じクラスになったことが無かったが、看護学校で一緒になって話すようになったのだ。
高校の小同窓会という言葉を聞いて、舞は固まった。
もしかして…あの人が来る?
固まりはしなかったが、響歌の顔も引きつっている。
半年以上経っても、『ヌラ』の記憶は2人の中から消えていなかった。
結局、卒業式には告白してこなかったが、中葉は5組の文集にとんでもないことを書いていたのだ。
文集には、私の結婚したい人は( )で、その年齢は( )歳。子供は( )人欲しいです。といった文があり、各人が空欄を埋めていくのだが、そこに中葉は『私の結婚したい人は(今井舞のような人)で、その年齢は(22)歳。子供は(2(上は男の子、下は女の子))人が欲しいです。と埋めていたのだ。しかも『今井舞』の部分だけやけに協調されていた。『のような人』という文字も一応はあったが、凄く小さな文字だった。
中葉は今でも舞のことを諦めていない。それがわかるので、そういった集まりは極力出席したくない。しかも卒業してからまだ1年も経っていないのだ。同窓会なんて早過ぎだ。
まぁ、だからこそ『小同窓会』であり、招待状も何も無いのだろうが。
「えぇっー、2人共そんな嫌そうにしないで一緒に来てよ。ほら、私も立場があるし、中葉君は来ない可能性の方が高いから。うん、きっと中葉君は誘っていないよ。乙羽ちゃんだって、彼のことを嫌がっていたもん。だから、ね?」
歩が頼み込むように言っている。このまま土下座するくらいの勢いだ。
まぁ、歩ちゃんにここまでさせるのは…ね。
「顔を出す程度ならいいよ。もちろんヌラがいても、歩ちゃんは逃げずにムッチーに貼りついていること。それだったら、私の方はいいかな」
響歌が舞の方へ視線をやった。あんたはどうするの?そう視線で訊いていた。
「え、あ、私もそれだったら…まぁ、うん、いいよ。でも、本当に顔を出すだけだよ。トミオムでご飯を食べるだけだよ」
中葉がいても、ご飯を食べるだけなら接近してこないだろう。あの店は動きまわると迷惑になる構造をしていたはずだ。
顔を出すだけなのに一応出席することになったからか、歩は安堵した。早速、出席のメッセージを幹事宛に送信する。
「ありがとう、もちろんご飯を食べるだけにするね。同じグループだったみんなも、今日はいないはずだもん。後は私達だけで遊ぼう」
そんな経緯で、響歌達は同窓会に参加することになったのだった。
3人は歩の家の前で時間を潰した後、トミオムに向かった。トミオムには既に元比良木高生の姿があった。その数は…20人くらいはいるだろうか。聞いたところによると、今回集まったのは4、5組の経済科で、ほとんどが柏原市在住。確かに顔触れを見てみると大多数が柏原の人だった。それ以外は…男子しかいないのではないだろうか。
驚いたことに男子の参加率は良かった。参加していないのは3人だけ。その3人は黒崎、平井、そして中葉だった。
まずは中葉の姿を探して、彼の姿が無いことに安堵した。車から降り、久し振りの面々に適当に挨拶を済ませる。響歌達が着くと、みんな店内に入っていった。どうやら自分達が最後だったらしい。
3人は一番奥の席に座った。一番奥は何段か上になっているので店内を見渡せた。周囲にはデザインコースで一緒だった人達がいたので、昔話や自分の近況を話して盛り上がった。
それでも顔出し程度と最初に言っていたので、食事が終わるとみんなと別れた。みんながこれから何をするのかはわからないが、まだ日も高いし、解散ということは無いだろう。
車に乗ると、歩が2人にお礼を言った。
「参加してくれてありがとう。でも、黒崎君がいなくて残念だったね」
歩の視線は、いつの間にか響歌の方だけに向いていた。
その意味に気づき、肩をすくめる響歌。
「一言余計だよ。でも、そうだよね、どんな風に変わっているのか見てみたかったな。他の男子はあまり変わっていなかったから、黒崎君もそうなんだろうけどね」
「それでもハッシーは来ていたよね。どうだった、久し振りのハッシーは。恋心が復活した。それともムカつきの方?」
舞も楽しげに響歌に訊いている。
「それを言うなら、あんたの方もでしょ。ヌラは来ていなかったけど、川崎君は来ていたわよね。どうだった、恋心が復活した?」
「なんで私の話になるのよ。今は響ちゃんに訊いているんだよ!」
「恋心も、ムカつきも無いわね。橋本君の姿が見られて良かったとも、嬉しかったとも思わなかった。それよりかは黒崎君の不参加が残念で…」
「やっぱり響ちゃんはそっちか!」
「うん、残念だったね。次は会えるといいね」
まったく…この2人は相変わらず人をからかうのが好きなんだから。
響歌は呆れ笑いをするしかなかった。
とりあえず無事に同窓会が終わったし、久し振りに元クラスメイトに出会えた。少しの間ではあったが参加して良かった。そう思ったのだった。
舞は就職してからすぐに車を購入した。これがまたオートマではなくてミッションだったので、夏には怖い目に遭ったことがある。響歌が帰省して2人で海辺のドライブをしたのだが、坂道発進を失敗して危うく後ろの車にぶつかりかけたのだ。
相変わらず不器用な舞だったが、それでもなんとか車の運転に慣れていった。今回も不安がる響歌を説得して、柏原市まで自分が運転することにした。響歌も歩も運転免許はあるが、自分の車は持っていない。だから自分が車を出すと意気込んでいた。
2人共、不安ではあったが、その好意はありがたかったので舞にお任せすることにした。
柏原市に向かう車の中ではサークルについて話し合っていた。高校卒業したら皆離れ離れになるのでもう終わりにしようかという話も出たことがあったのだが、その少し前に男子バレーがオリンピック出場権を逃してしまった。その時と重なってしまい、出場権を逃したからバレー熱が冷めて止めたと思われそうだったので当分続けることにしたのだ。高校卒業してはい、終了!だと、会員の皆様に失礼になると思ったのもある。
だから不便にはなったが、今でも活動は継続中だ。
そんな打ち合わせをしていたら、あっという間に柏原市に到着。歩と合流した。
今の時間は午前11時。少し早いが、お昼ご飯を食べにお店に行くのもいいかもしれない。
そんなことを響歌が思っていると、歩の口から予想外な言葉が出た。
「ねぇ、これからトミオムに行かない?」
『トミオムに?』
久しぶりに舞と響歌がハモった。
トミオムとは略した言い方で、正式には『トミーのオムライス』という洋食店だ。店名にオムライスという名がついている通りその店の売りはオムライスだが、それ以外の料理にも定評がある。
「そこだと気軽に過ごせるし、ドリンクバーもあるから長居できるけどさ。なんでまたトミオムに行く気になったの?」
気にし過ぎかもしれないが、響歌は訊ねずにはいられなかった。柏原にはその他にも食事するところは沢山ある。その中で歩がはっきり主張するのは何かあるんじゃないか思ったのだ。
「実は12時からトミオムで高校の小同窓会があるの。私も昨日、乙羽ちゃんから聞いたばかりなんだけど、できれば何人か誘って来て欲しいって言われたんだ」
歩の言う乙羽ちゃんとは、歩と同じ看護学校に行っている元比良木高生だ。高校の時は歩と同じクラスになったことが無かったが、看護学校で一緒になって話すようになったのだ。
高校の小同窓会という言葉を聞いて、舞は固まった。
もしかして…あの人が来る?
固まりはしなかったが、響歌の顔も引きつっている。
半年以上経っても、『ヌラ』の記憶は2人の中から消えていなかった。
結局、卒業式には告白してこなかったが、中葉は5組の文集にとんでもないことを書いていたのだ。
文集には、私の結婚したい人は( )で、その年齢は( )歳。子供は( )人欲しいです。といった文があり、各人が空欄を埋めていくのだが、そこに中葉は『私の結婚したい人は(今井舞のような人)で、その年齢は(22)歳。子供は(2(上は男の子、下は女の子))人が欲しいです。と埋めていたのだ。しかも『今井舞』の部分だけやけに協調されていた。『のような人』という文字も一応はあったが、凄く小さな文字だった。
中葉は今でも舞のことを諦めていない。それがわかるので、そういった集まりは極力出席したくない。しかも卒業してからまだ1年も経っていないのだ。同窓会なんて早過ぎだ。
まぁ、だからこそ『小同窓会』であり、招待状も何も無いのだろうが。
「えぇっー、2人共そんな嫌そうにしないで一緒に来てよ。ほら、私も立場があるし、中葉君は来ない可能性の方が高いから。うん、きっと中葉君は誘っていないよ。乙羽ちゃんだって、彼のことを嫌がっていたもん。だから、ね?」
歩が頼み込むように言っている。このまま土下座するくらいの勢いだ。
まぁ、歩ちゃんにここまでさせるのは…ね。
「顔を出す程度ならいいよ。もちろんヌラがいても、歩ちゃんは逃げずにムッチーに貼りついていること。それだったら、私の方はいいかな」
響歌が舞の方へ視線をやった。あんたはどうするの?そう視線で訊いていた。
「え、あ、私もそれだったら…まぁ、うん、いいよ。でも、本当に顔を出すだけだよ。トミオムでご飯を食べるだけだよ」
中葉がいても、ご飯を食べるだけなら接近してこないだろう。あの店は動きまわると迷惑になる構造をしていたはずだ。
顔を出すだけなのに一応出席することになったからか、歩は安堵した。早速、出席のメッセージを幹事宛に送信する。
「ありがとう、もちろんご飯を食べるだけにするね。同じグループだったみんなも、今日はいないはずだもん。後は私達だけで遊ぼう」
そんな経緯で、響歌達は同窓会に参加することになったのだった。
3人は歩の家の前で時間を潰した後、トミオムに向かった。トミオムには既に元比良木高生の姿があった。その数は…20人くらいはいるだろうか。聞いたところによると、今回集まったのは4、5組の経済科で、ほとんどが柏原市在住。確かに顔触れを見てみると大多数が柏原の人だった。それ以外は…男子しかいないのではないだろうか。
驚いたことに男子の参加率は良かった。参加していないのは3人だけ。その3人は黒崎、平井、そして中葉だった。
まずは中葉の姿を探して、彼の姿が無いことに安堵した。車から降り、久し振りの面々に適当に挨拶を済ませる。響歌達が着くと、みんな店内に入っていった。どうやら自分達が最後だったらしい。
3人は一番奥の席に座った。一番奥は何段か上になっているので店内を見渡せた。周囲にはデザインコースで一緒だった人達がいたので、昔話や自分の近況を話して盛り上がった。
それでも顔出し程度と最初に言っていたので、食事が終わるとみんなと別れた。みんながこれから何をするのかはわからないが、まだ日も高いし、解散ということは無いだろう。
車に乗ると、歩が2人にお礼を言った。
「参加してくれてありがとう。でも、黒崎君がいなくて残念だったね」
歩の視線は、いつの間にか響歌の方だけに向いていた。
その意味に気づき、肩をすくめる響歌。
「一言余計だよ。でも、そうだよね、どんな風に変わっているのか見てみたかったな。他の男子はあまり変わっていなかったから、黒崎君もそうなんだろうけどね」
「それでもハッシーは来ていたよね。どうだった、久し振りのハッシーは。恋心が復活した。それともムカつきの方?」
舞も楽しげに響歌に訊いている。
「それを言うなら、あんたの方もでしょ。ヌラは来ていなかったけど、川崎君は来ていたわよね。どうだった、恋心が復活した?」
「なんで私の話になるのよ。今は響ちゃんに訊いているんだよ!」
「恋心も、ムカつきも無いわね。橋本君の姿が見られて良かったとも、嬉しかったとも思わなかった。それよりかは黒崎君の不参加が残念で…」
「やっぱり響ちゃんはそっちか!」
「うん、残念だったね。次は会えるといいね」
まったく…この2人は相変わらず人をからかうのが好きなんだから。
響歌は呆れ笑いをするしかなかった。
とりあえず無事に同窓会が終わったし、久し振りに元クラスメイトに出会えた。少しの間ではあったが参加して良かった。そう思ったのだった。