少女達の青春群像 ~途切れなかった絆~
1時間は話していたが、橋本は何が言いたいのかよくわからなかった。今は彼女がいないということ。女が欲しいと言うこと。何故か『暇だ』という言葉を何回も言っていた。響歌がなんで一時期怒っていたのか訊ねても曖昧に誤魔化していた。
それでも一応収穫はある。『ラブラブ作戦』のことだ。
もちろんそのことは他の3人にも伝えなくてはいけない。早速、次の日に召集をかけた。
時間は前回と同じ、夜の9時。今日はその前にしっかりと食事はした。机の上にあるのはパソコンとアイスコーヒーだけだ。
モニターに映っている3人は少しでも突くと笑いだしそうな感じだった。響歌の話を聞き終えた後なので、そんな感じになるのも当たり前なのかもしれない。
「いやぁ、まさかあの人が、まだ覚えているとは思わなかったわ。その様子なら、私が書いた手紙もまだ持っていそうだよね」
「良かったね、亜希ちゃん。もしすぐに捨てられていたら、告白したのは自分じゃないけどちょっとショックを受けそうって、あの時に言っていたもんね」
「うん、本当にそうだよ。卒業前にも書いておいて本当に良かった」
「でも、今でも覚えているなんて。なんだか悪いことをしたかな。たちの悪い悪戯だと取って欲しかったんだけどなぁ」
実行役2人がほくほくした顔で話している。悪いことをしたと言ってはいるが、その顔だと本当にそう思っていると信じる人はいないだろう。
「それにしたって、そのことを響ちゃんに話すなんて。もう、ハッシーってば、笑えることをしてくれるじゃないの!」
舞がとうとう机を叩きながら笑い出した。
「きっと響ちゃんに嫉妬をして欲しかったのよ。そんなに笑っちゃ、悪いわよ、ムッチー」
そう言う亜希も笑っていたので、説得力がまるで無い。
「あの時は一言返事だけだったから不信感を持たれていると思っていたんだけど、もしかして緊張していたからあんな返答になったのかな?」
歩があの時のことを思い出して首を傾げている…笑顔で。
「テツヤ君は突っ込んで訊いたりしていたみたいなのにね。これって経験の差かな。やっぱりテツヤ君はモテるのよ。さっすがテツヤ君よね。それに比べてハッシーってば、ウッ…ウッ…ウッ…」
やはり橋本をバカにしている舞。
「橋本君もさっちゃんに好かれていたんだから、そんな風に言ってはダメだよ。でも、橋本君って本当に素直じゃないね。話を聞いていると、響ちゃんに嫉妬してもらいたいように感じるんだけど」
歩の言葉に同意するのは亜希だ。
「私もそう感じた。気に入っていた女子の名前を色々出していたんでしょ。そんなの出したところで響ちゃんが嫉妬するわけが無いのに。もし響ちゃんがまだ橋本君を好きだったとしても、そんな話をしたら逆効果になるわよ。子供じゃないんだから…」
「だから亜希ちゃん、ハッシーはお子様なのよ。しかも智恵美ちゃんも気に入っていたなんて。あんたには智恵美ちゃんなんて雲の上の存在でしょうが!」
やはり橋本に対して厳しい舞。
「まぁ、なんにしてもバレなくて良かった、といったところよね。あまりにもどうでもいい話題ばかりだったから、最後の方は適当な受け答えになってしまっていたんだけどさ。まぁ、途中で切り上げなくて良かったわ。何がしたいのか最後までわからなかったけど、作戦がバレていないとわかっただけでも良しとしないとね」
響歌がそう言って話を締めた。
橋本から再び電話がかかってきたのは、この2週間後だった。
ある夜の10時頃。響歌の家にまた橋本が電話をかけてきた。どうやら先週も9時くらいにかけたが留守だったので、今回は1時間ずらして10時にかけたようだ。しかも今は外にいて、その上、友達付だ。
こんな状況なので今回こそ用件があるのだろうと思っていたが、その予想は違った。橋本は『暇だから電話をした』らしい。しかもまた『暇だ、暇だ』とか、『女が欲しい』ばかり言っている。
もしかして今回もこんなことをずっと聞かなければならないのだろうか。
「テストが終わって暇だから、〇〇市(響歌が住んでいる場所)まで遊びに行こうかな」
これは…もしかして私を誘っているのかしらね。なんだか覚えがあるわよ、このセリフ。
「まぁ、いいんじゃないの。テストが終わったのなら遠出をしてもいいよね。そこなら遊ぶところが沢山あるわよ」
生憎、私の方はこれからテストだけどさ。
「学校には女子が少なくてさぁ」
だから女を紹介しろと?
「そうなんだ。高校の時と逆じゃない。私の方は男子の方が多くなって、違う意味で逆になったけど」
だから私の方は紹介してもらわなくてもいいのよね。というよりもなんでそのことを、わざわざ離れている私に言うかな。
はっきりいって相手をするのも面倒になってきた。
用件も無さそうだし、相変わらず怒っていた理由を訊くとはぐらかす。私に会いたいのかもしれないけど、自分からははっきり言ってこない。
相手に言わそうとするんじゃないわよ!
そんなに女が欲しいのなら、少し情報を与えてあげようかしらね。
「そこまで暇で女が欲しいのなら教えておいてあげるわ。実は高校の時、さっちゃんがあんたのことを好きだったのよ」
響歌が紗智のことを教えると、橋本が驚いた声をあげた。
「えぇっー、本当かよ。オレ、河合さんと広瀬さんのこと狙っていたのに!」
…は?
「その割には、この前の電話の時に名前が出なかったけどね。しかもあんたという人は、こずちゃんのことも狙っていたの。どこからその2人が出てきたのよ」
「どこからって、オレら…まぁ、川崎も含めてだけど、3年からクラブしていただろ?」
「あぁ、あの変なクラブね」
「変って言うな」
「細かいことはいいじゃないの。それで話す機会がよくあったっていうこと?」
「まぁ、そういうことだ」
だからこそ紗智が橋本への気持ちを自覚したのだろうか。
「それは違うでしょう!」
話を聞くなり、舞が叫んだ。
今回は座談会みたいにはしていない。丁度、舞がサークルのことで電話をしてきたので、そのついでに報告したのだ。
「そりゃ、ハッシーはこずちゃんとも話していたけど、それはこずちゃんが話しかけたからであって、あの人から話すことは無かったから。さっちゃんとだってそうだよ。それなのに狙っていたなんて。しかも1人ではなくて2人なんて。あんたにこずちゃんは高嶺の華過ぎるのよ!」
舞はやはり橋本に対して辛口だった。
響歌の隣でずっと経緯を見ていたので、このような評価になっても仕方がないのかもしれない。
「私の目からも、2人を狙っている風には見えなかったからね。プログラミングコースのあんたは余計にそう思うんでしょうよ。でも、これからは本当に狙ってくるかもよ。私にそんな手紙を送ってきたから」
「はぁ?あの人ってば、そんな手紙を送ってきたの。って、響ちゃん。私、まだその手紙を見せてもらっていないんだけど!」
なんで響歌宛の手紙を舞に見せないといけないのか。
「前の時に、見せるのは今回だけって言ったでしょ。それになんの面白みも無いものだったわよ。さっちゃんの連絡先を教えて欲しいって書いてあったわ。それか女の子の紹介でも…といった文もあったわね。さすがにもうその手紙はスルーしたわよ」
「うん、それで正解だよ。なんで響ちゃんが、わざわざハッシーに女の紹介なんかしないといけないのさ。しかもさっちゃんの連絡先って。そんなの教えてしまったら、響ちゃんがハッシーに気持ちをバラしたって知られてしまうじゃない。そんな怖しいことなんてできっこないよ」
「まぁ、そうよね。バレてさっちゃんに怒られるのはちょっと勘弁して欲しいわ。まぁ、バラした自分が悪いんだけどさ。でも、これだって、最後まで内緒にしていたさっちゃんが悪いんだから。素直に教えてくれていれば、私だって橋本君には言わなかったわよ」
響歌は紗智に対して少し怒っていた。
そりゃ、言いにくかったとは思う。だから私には内緒にしておいてもいい。
でも、せめて一番仲良くしていたまっちゃんや、訊きだそうとしていた歩ちゃんにははっきりと白状して欲しかった。特にまっちゃんなんて、自分の好きな人のことをさっちゃんに教えているのだから教えてあげても良かったと思う。
そういった不信感もあって、簡単にバラしたのだ。
「それで響ちゃん、手紙にはそんなのしか書いていなかったの。そもそもなんでハッシーは、わざわざ響ちゃんに手紙なんて書いたのよ?」
「なんか電話だと、どうでもいい話ばかりで本題に入れなかったみたい」
「どうでもいい話って、自分でもわかっていたんだ」
「まぁ、私がわざとそっち方面を避けていたからね」
「なんで!」
「なんか…面倒だったから。適当な話をして適当に終わろうとしたのよ。それを見抜かれたのかしらね」
「響ちゃん、あなたって人は…」
今回は電話だけど、舞のガックリしている姿が目に浮かぶようだ。
でも、本音なのだから仕方がない。そもそもあの人は年賀状だけでしか謝っていない。
年賀状をもらった時は橋本に対する怒りも消えていたが、電話で話しているうちに気が変わった。本当に以前のように何も無かったかのように話していたので段々腹が立ってきたのだ。
本当に悪いと思っているのなら、電話の時に一言くらいは謝るでしょうが!
しかもやっぱり、こっちの反応を待っているような感じだったしさ。
あの幻となった告白の時の毅然とした態度はいったいどこに消えてしまったのだろう。本当に同一人物だったのかとさえ思えてくる。
「一応、私からのチョコを受け取らなかった理由も書いてあったのよ。でも、なんだか嘘くさいのよね」
「どんな理由だったの?」
「ほら、バレンタインの前に『足達さん』があの人に手紙を渡したでしょ。その足達さんのことが気になって、ああいった対応になったんだって」
「…それは本当に嘘くさいね」
それに本当にそうならとんだピエロだ。あの足達という人物は、実際にはいないのだから。
「もう私からは関わらない。下手をしたら作戦のことまでバレるもの。手紙には私のスマホの方の連絡先も教えて欲しいようなことが書いてあったけど、返事もしないわ。さっちゃんに会いたいのなら、同窓会に参加していればいつか会えるでしょ」
「うん、それで正解だよ。響ちゃんとハッシーは結ばれない運命だったんだよ」
スマホから聞こえてくる舞の声は疲れ切っていた。
これ以降、響歌の家に橋本からの電話は無くなった。
それでも一応収穫はある。『ラブラブ作戦』のことだ。
もちろんそのことは他の3人にも伝えなくてはいけない。早速、次の日に召集をかけた。
時間は前回と同じ、夜の9時。今日はその前にしっかりと食事はした。机の上にあるのはパソコンとアイスコーヒーだけだ。
モニターに映っている3人は少しでも突くと笑いだしそうな感じだった。響歌の話を聞き終えた後なので、そんな感じになるのも当たり前なのかもしれない。
「いやぁ、まさかあの人が、まだ覚えているとは思わなかったわ。その様子なら、私が書いた手紙もまだ持っていそうだよね」
「良かったね、亜希ちゃん。もしすぐに捨てられていたら、告白したのは自分じゃないけどちょっとショックを受けそうって、あの時に言っていたもんね」
「うん、本当にそうだよ。卒業前にも書いておいて本当に良かった」
「でも、今でも覚えているなんて。なんだか悪いことをしたかな。たちの悪い悪戯だと取って欲しかったんだけどなぁ」
実行役2人がほくほくした顔で話している。悪いことをしたと言ってはいるが、その顔だと本当にそう思っていると信じる人はいないだろう。
「それにしたって、そのことを響ちゃんに話すなんて。もう、ハッシーってば、笑えることをしてくれるじゃないの!」
舞がとうとう机を叩きながら笑い出した。
「きっと響ちゃんに嫉妬をして欲しかったのよ。そんなに笑っちゃ、悪いわよ、ムッチー」
そう言う亜希も笑っていたので、説得力がまるで無い。
「あの時は一言返事だけだったから不信感を持たれていると思っていたんだけど、もしかして緊張していたからあんな返答になったのかな?」
歩があの時のことを思い出して首を傾げている…笑顔で。
「テツヤ君は突っ込んで訊いたりしていたみたいなのにね。これって経験の差かな。やっぱりテツヤ君はモテるのよ。さっすがテツヤ君よね。それに比べてハッシーってば、ウッ…ウッ…ウッ…」
やはり橋本をバカにしている舞。
「橋本君もさっちゃんに好かれていたんだから、そんな風に言ってはダメだよ。でも、橋本君って本当に素直じゃないね。話を聞いていると、響ちゃんに嫉妬してもらいたいように感じるんだけど」
歩の言葉に同意するのは亜希だ。
「私もそう感じた。気に入っていた女子の名前を色々出していたんでしょ。そんなの出したところで響ちゃんが嫉妬するわけが無いのに。もし響ちゃんがまだ橋本君を好きだったとしても、そんな話をしたら逆効果になるわよ。子供じゃないんだから…」
「だから亜希ちゃん、ハッシーはお子様なのよ。しかも智恵美ちゃんも気に入っていたなんて。あんたには智恵美ちゃんなんて雲の上の存在でしょうが!」
やはり橋本に対して厳しい舞。
「まぁ、なんにしてもバレなくて良かった、といったところよね。あまりにもどうでもいい話題ばかりだったから、最後の方は適当な受け答えになってしまっていたんだけどさ。まぁ、途中で切り上げなくて良かったわ。何がしたいのか最後までわからなかったけど、作戦がバレていないとわかっただけでも良しとしないとね」
響歌がそう言って話を締めた。
橋本から再び電話がかかってきたのは、この2週間後だった。
ある夜の10時頃。響歌の家にまた橋本が電話をかけてきた。どうやら先週も9時くらいにかけたが留守だったので、今回は1時間ずらして10時にかけたようだ。しかも今は外にいて、その上、友達付だ。
こんな状況なので今回こそ用件があるのだろうと思っていたが、その予想は違った。橋本は『暇だから電話をした』らしい。しかもまた『暇だ、暇だ』とか、『女が欲しい』ばかり言っている。
もしかして今回もこんなことをずっと聞かなければならないのだろうか。
「テストが終わって暇だから、〇〇市(響歌が住んでいる場所)まで遊びに行こうかな」
これは…もしかして私を誘っているのかしらね。なんだか覚えがあるわよ、このセリフ。
「まぁ、いいんじゃないの。テストが終わったのなら遠出をしてもいいよね。そこなら遊ぶところが沢山あるわよ」
生憎、私の方はこれからテストだけどさ。
「学校には女子が少なくてさぁ」
だから女を紹介しろと?
「そうなんだ。高校の時と逆じゃない。私の方は男子の方が多くなって、違う意味で逆になったけど」
だから私の方は紹介してもらわなくてもいいのよね。というよりもなんでそのことを、わざわざ離れている私に言うかな。
はっきりいって相手をするのも面倒になってきた。
用件も無さそうだし、相変わらず怒っていた理由を訊くとはぐらかす。私に会いたいのかもしれないけど、自分からははっきり言ってこない。
相手に言わそうとするんじゃないわよ!
そんなに女が欲しいのなら、少し情報を与えてあげようかしらね。
「そこまで暇で女が欲しいのなら教えておいてあげるわ。実は高校の時、さっちゃんがあんたのことを好きだったのよ」
響歌が紗智のことを教えると、橋本が驚いた声をあげた。
「えぇっー、本当かよ。オレ、河合さんと広瀬さんのこと狙っていたのに!」
…は?
「その割には、この前の電話の時に名前が出なかったけどね。しかもあんたという人は、こずちゃんのことも狙っていたの。どこからその2人が出てきたのよ」
「どこからって、オレら…まぁ、川崎も含めてだけど、3年からクラブしていただろ?」
「あぁ、あの変なクラブね」
「変って言うな」
「細かいことはいいじゃないの。それで話す機会がよくあったっていうこと?」
「まぁ、そういうことだ」
だからこそ紗智が橋本への気持ちを自覚したのだろうか。
「それは違うでしょう!」
話を聞くなり、舞が叫んだ。
今回は座談会みたいにはしていない。丁度、舞がサークルのことで電話をしてきたので、そのついでに報告したのだ。
「そりゃ、ハッシーはこずちゃんとも話していたけど、それはこずちゃんが話しかけたからであって、あの人から話すことは無かったから。さっちゃんとだってそうだよ。それなのに狙っていたなんて。しかも1人ではなくて2人なんて。あんたにこずちゃんは高嶺の華過ぎるのよ!」
舞はやはり橋本に対して辛口だった。
響歌の隣でずっと経緯を見ていたので、このような評価になっても仕方がないのかもしれない。
「私の目からも、2人を狙っている風には見えなかったからね。プログラミングコースのあんたは余計にそう思うんでしょうよ。でも、これからは本当に狙ってくるかもよ。私にそんな手紙を送ってきたから」
「はぁ?あの人ってば、そんな手紙を送ってきたの。って、響ちゃん。私、まだその手紙を見せてもらっていないんだけど!」
なんで響歌宛の手紙を舞に見せないといけないのか。
「前の時に、見せるのは今回だけって言ったでしょ。それになんの面白みも無いものだったわよ。さっちゃんの連絡先を教えて欲しいって書いてあったわ。それか女の子の紹介でも…といった文もあったわね。さすがにもうその手紙はスルーしたわよ」
「うん、それで正解だよ。なんで響ちゃんが、わざわざハッシーに女の紹介なんかしないといけないのさ。しかもさっちゃんの連絡先って。そんなの教えてしまったら、響ちゃんがハッシーに気持ちをバラしたって知られてしまうじゃない。そんな怖しいことなんてできっこないよ」
「まぁ、そうよね。バレてさっちゃんに怒られるのはちょっと勘弁して欲しいわ。まぁ、バラした自分が悪いんだけどさ。でも、これだって、最後まで内緒にしていたさっちゃんが悪いんだから。素直に教えてくれていれば、私だって橋本君には言わなかったわよ」
響歌は紗智に対して少し怒っていた。
そりゃ、言いにくかったとは思う。だから私には内緒にしておいてもいい。
でも、せめて一番仲良くしていたまっちゃんや、訊きだそうとしていた歩ちゃんにははっきりと白状して欲しかった。特にまっちゃんなんて、自分の好きな人のことをさっちゃんに教えているのだから教えてあげても良かったと思う。
そういった不信感もあって、簡単にバラしたのだ。
「それで響ちゃん、手紙にはそんなのしか書いていなかったの。そもそもなんでハッシーは、わざわざ響ちゃんに手紙なんて書いたのよ?」
「なんか電話だと、どうでもいい話ばかりで本題に入れなかったみたい」
「どうでもいい話って、自分でもわかっていたんだ」
「まぁ、私がわざとそっち方面を避けていたからね」
「なんで!」
「なんか…面倒だったから。適当な話をして適当に終わろうとしたのよ。それを見抜かれたのかしらね」
「響ちゃん、あなたって人は…」
今回は電話だけど、舞のガックリしている姿が目に浮かぶようだ。
でも、本音なのだから仕方がない。そもそもあの人は年賀状だけでしか謝っていない。
年賀状をもらった時は橋本に対する怒りも消えていたが、電話で話しているうちに気が変わった。本当に以前のように何も無かったかのように話していたので段々腹が立ってきたのだ。
本当に悪いと思っているのなら、電話の時に一言くらいは謝るでしょうが!
しかもやっぱり、こっちの反応を待っているような感じだったしさ。
あの幻となった告白の時の毅然とした態度はいったいどこに消えてしまったのだろう。本当に同一人物だったのかとさえ思えてくる。
「一応、私からのチョコを受け取らなかった理由も書いてあったのよ。でも、なんだか嘘くさいのよね」
「どんな理由だったの?」
「ほら、バレンタインの前に『足達さん』があの人に手紙を渡したでしょ。その足達さんのことが気になって、ああいった対応になったんだって」
「…それは本当に嘘くさいね」
それに本当にそうならとんだピエロだ。あの足達という人物は、実際にはいないのだから。
「もう私からは関わらない。下手をしたら作戦のことまでバレるもの。手紙には私のスマホの方の連絡先も教えて欲しいようなことが書いてあったけど、返事もしないわ。さっちゃんに会いたいのなら、同窓会に参加していればいつか会えるでしょ」
「うん、それで正解だよ。響ちゃんとハッシーは結ばれない運命だったんだよ」
スマホから聞こえてくる舞の声は疲れ切っていた。
これ以降、響歌の家に橋本からの電話は無くなった。