【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「私だって新那とならどこへ行っても楽しいよ。でも、成長するにつれて変わることだってあるでしょ」
「あるよ、だけどそれと同時に変わらないことだってあるの。瑠佳ちゃんは私の親友でこれからもずっと一番だもん!」
大きな瞳を潤わせながら、じっと私を見つめる新那。
目尻からツーと一筋の涙がこぼれ落ちた瞬間、彼女はこの足先がキンっと冷えてしまうほどの冷たい海水を手のひらに掬って顔を洗った。
「ちょ!……何してるの」
私が叫び終わるのとほぼ同じタイミングで、新那が水に濡れた顔をあげる。
「泣かない。泣いてないから」
「う、うん……?」
「何でも話してとは言わない。でも、瑠佳ちゃんが今みたいな不安を抱えてるなら教えてほしいし、負担に思うようなことがあったらはっきりと言ってほしい。ずっと親友でいたいから」
「に、いな……」
「私はもう一人で泣いてた転校生じゃないよ。もっと、頼って、甘えて、信頼して。私だって瑠佳ちゃんのことを一人になんてしないんだから」
新那の言葉にどんどん目の前の視界が歪んでいく。
そういえば最後に泣いたのっていつだったかな──。