【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「あれ、もしかして瑠佳ちゃんが押し倒してた感じ?」
「ち、違う!これはちょっとした事故で!」
「その割には動揺しすぎじゃない?」
「それは真宙くんが変なことを言うからであって、いちゃいちゃなんて1ミリもしてないからね」
私が強く否定する横で「……ったく、空気読めよ真宙」とつぶやく怜央。
「これ以上、話をややこしくしないで」
私が睨みを利かせると、怜央は「はいはい」と口にした後、わざとらしく舌を出した。
「またどっかの猫が鳴き出す前に食おーぜ」
猫が鳴き出す?
それってまさか、私の腹の音のことじゃ……。
「い、言っとくけど、あれ全然フォローになってなかったからね」
「本当は怪獣だったところを可愛い動物に例えてやった俺の優しさだろ」
「それなら気づかないふりしてよ」
「あの音を?」
「ほーら、そこ喧嘩しない」
真宙くんの一声により、私と怜央は一時休戦することに。
といっても、本気で喧嘩をしていたわけではない。
多分、これが怜央と私の距離の縮め方。
「瑠佳ちゃん、りんごジュースでよかった?」
「あ、うん、ありがとう新那」
階段の一番上に私と新那が。
2段下に怜央と真宙くんが腰を下ろす。
「皆、飲み物持ったよね?それじゃあ、4人で来た初めての海に乾杯ー!!」
真宙くんの音頭により、私たちはジュースを持っていた手を空高く掲げた。
夕暮れに染まる海辺には、カンッとアルミ缶のぶつかる音が響いた──。