【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
正直、私はその答えにほっとした。
真宙くんは誰にでもフレンドリーで、細やかな気遣いのできる優しい人。
でも、その一方でどこか壁があるように感じる。
きっと一筋縄ではいかない相手だ。
「瑠佳ちゃん、また難しい顔してるよ。ほら糖分摂って」
銀紙に包まれたチョコを1つ、2つ、3つと私の前に積んでいく新那。
「ありがと。って、多いよ」
「全部で10種類の味なんだって」
チョコのタワーはもうすでに7段目まできていた。
「え、まさか全種類くれる気?」
「うん。どれが一番か決めようよ」
「いいけど、なんで縦に積むの?」
「……なんか挑戦したくなって」
「ならないでしょ普通」
謎の挑戦心に思わず吹き出してしまうと、釣られたようにして新那も笑う。
そのせいでチョコのタワーは10段目を目前に倒れてしまった。
「あぁ、あと一段だったのに。瑠佳ちゃんが笑うから」
「新那も笑ってたでしょ?手ぷるぷるしてたよ」
「私、何してるんだろうって思って」
「いや、気づくの遅っ」
くだらない話で盛り上がり、意味のないことで笑い合う。
ただただ平和な時間に届いた一通のメッセージ。
それが、これから起こる事件への始まりだった──。