【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「5点。うちに帰ったら鏡の前で練習な。明日には慣れとけよ」
私に5点という点数をつけた怜央は、片方の口角だけを上げて笑う。
「今、笑ったでしょ?」
「は?……笑ってねーよ」
絶対、笑った。
バカにした笑いだったけど。
「んなことより、授業はじまるぞ」
「え、嘘!?戻らなきゃ」
チャイムが鳴ったことにすら気づかないなんて、私はどれほど彼に気を取られていたのだろう。
慌ててドアを開けると、視界の隅で怜央がゆっくりと腰を下ろした。
「……授業出ないの?」
「さっき出たからパス」
「いや、授業は全部出るもんでしょう」
なんて暴走族の総長に言っても無駄か。
「瑠佳は真面目に頑張れよ授業も。名前呼びも」
「ま、まだその話する?言われなくとも頑張りますよ。仕事なんで!」
授業に出る気のない怜央を残して一人、階段を下りる。
「あ、雇い主相手に偉そうな口聞いちゃった。まぁ、いいか。仕事は明日からだし」
今日はバイトが終わったら、名前呼びの特訓だ。
二度と5点なんて言わせないんだから。
こうして私の“雇われ姫”生活が幕を開けた──。