【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「瑠佳ちゃんちの事情を知ってるから、頑張る理由もわかるよ。だけど、自分のこともちゃんと大切にしてね?」
「わかってるって」
「本当に本当に本当?」
普段おっとりとしている新那が口を尖らせながら言う。
その表情がずいぶんと可愛らしくて、柔らかな頬を突きながら「本当!」と返事をした。
彼女がここまで私のことを心配するのには理由がある。
それは私が弟と2人で暮らしているからだ。
幼い頃に母を病気で亡くしてから、ずっと男手一つで私たちを育ててくれた父。
料理はあまり得意ではなかったけれど、いつも笑顔で、優しくて、自慢の父だった。
だけど昨年、父も私と弟を残して亡くなった。
母を亡くしたときと同じ、病死。
ただ、父との別れはあまりにも突然だった。
高校に入学したばかりだった私は退学して働くことを考えたが、先生たちから奨学金制度などの様々な提案を受け、何とか学生生活を続けられている。
とはいえ、生活に余裕はない。
弟はまだ中学3年生。
家計を支えるためには私が働くしかないのだ。