【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「……お前が水瀬瑠佳だよな?」
「そう、です……けど、」
私が返事をすると、新那の潤んだ目が何かを訴えてきた。
多分、『何かしたの?』そんなところだろう。
なんの覚えもない私は首を小さく横に振る。
高校に入学してから1年と1か月が経過したが、蓮見怜央と話すのは今日が初めてだ。
「話あんだけど」
「えっ……?」
なんの関わりもないこの私に?
わざわざ教室まで出向いて話したいことって?
これが他の男子からの呼び出しであれば、多少は浮ついた気持ちになったかもしれない。
けれど、私の前に立っているのは暴走族総長。
この先、ロマンチックな展開なんか期待できない。
これは私が知らないうちに何かやらかしたに一票。
というか、『私は話なんてないです』と言ってあっさり引き下がる相手なのだろうか。
私が言葉をつまらせていると、冷たい瞳は廊下へと視線を移す。
「ここじゃあれだから」
たまたま廊下に立っていた男子は彼と目が合ったのかビクッと体を震わせた。