【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「急じゃないよ。私の気持ちは最初から変わってない。瑠佳ちゃんに危ないバイトはしてほしくないの」
「そうだったね。でも私は……、」
「小川の言いたいことはわかった」
私の言葉を遮るように怜央が言う。
“わかった”ってどういうこと?
私が雇われの姫をやめてもいいってこと?
不思議なことに、この時の私は高時給のバイト先を失うよりも、怜央にとって替えの利く人間だったという事実のほうにひどく胸が痛んだ。
膝の上に置いていた手をギュッと握りしめる私の横で、新那が安堵のため息をもらす。
「それで?小川の言うとおり瑠佳がこの仕事を辞めたとして、生活はどうすんの。お前が代わりに瑠佳を雇うのか?」
怜央は続けて「無理だろ」と口にすると鼻で笑った。
「そ、それは……」
「外野が口を出すのは簡単だよな。本気で辞めてほしいのなら、このバイトと同じ、もしくはもっと好条件のバイトでも瑠佳に紹介してやれよ」
「ちょっと、怜央!新那は外野なんかじゃないから。私の大事な親友をそんな風に言わないでよ」