【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
学生にとって転校生がやってくるというのは一大イベントに近い。
それに加えて皆が“お姫様みたいに可愛い女の子”だなんて言うものだから、小川新那の名前はあっという間に学校中へと広まった。
「クラスに馴染めなくて、他学年の人にもコソコソ噂されて……もう学校に行きたくないなと思ってた時に瑠佳ちゃんが私を見つけてくれたの。今日みたいに」
「確かあの時は理科室の隣にあった階段だったよね」
「え、場所まで覚えてるの?私は瑠佳ちゃんと初めて話した日だから、もちろん覚えてるけど」
「あんな印象的な出会い忘れないよ」
その日、私は4限目の授業で使った図書室に筆箱を忘れて、昼休みに鍵を借りて取りに行ったのだ。
職員室からの帰り道、階段を上っていると耳に入ったのは女の子のすすり泣くような声。
踊り場から恐る恐る覗いてみると、涙を流しているのは噂の転校生だった。
『どうして泣いてるの?』
私がそう尋ねた直後、彼女は今日と同じようにボロボロと涙をこぼした。
『……言わない……でっ』
『え?』
『ここで泣いてたこと、っう、誰にも言わないでっ』