硝子の枕⑥/生死を超えたイカレ愛の巣💖【エロティックブラックの読切り第6話です♪】

その2

その2




「…じゃあ、籍を入れるのは年明け早々ってことでいいんだな?」

「うん。本当は年内でもいいんだ。どっちでも。私にとってそういうの、あんまりこだわりないから。投げやりみたいでごめんね。はは…」

「いやあ、俺もどっちかって言えば、そんなもんだわ。でも、本郷麻衣が倉橋麻衣になることを、俺としては結構、重たく受け止めてる」

「…その理由、聞いていい?」

麻衣はベッドの左横から自分の肩に回している彼の毛深い右腕を両の手で捉えると、それを自らの首にマフラーを巻き付けるかのように右側へ身を反転させた。

撲殺人の体の上に半ば乗っかった態勢で、麻衣は彼の目を見つめて返事を待っていた。

「俺はいわば、本郷麻衣のファンだったから…」

その回答は、彼独特のとつとつ調で麻衣に届いた。

「…」

麻衣は口にする言葉を模索したが、なぜか難航していたようだった。 
それを今や戦友に至った愛しい婚約者は察したのか、その間を埋めるかのようにとつとつ言葉を発する。



💖💖💖



「…麻衣ちゃんは俺が憧憬していた相馬会長の死生観をよう、女子高生の立ち位置で体現していた。それは言葉にできない衝撃だったよ…」

本郷麻衣を故相馬豹一が後押しすることとなった際、倉橋は麻衣の一番近いポジションに着いた。
それは用心棒兼監視役と言う、二つのオフィシャルなポジションを有して…。

そして…、倉橋は若き日の命知らずな相馬を彷彿させる麻衣の傍若無人な疾走ぶりを目の当たりにして、一種リスペクトの念を抱く。
それこそ、たいした時間を要さずに…。

さらに麻衣と行動を共にするうちに、二人の間には年齢の差を超えたシンパシーも生まれていった。

倉橋はそんな麻衣を一人の女として愛するようになり、ついに相馬豹一の死生観の神髄を会得した。
撲殺人倉橋優輔にとって、その神髄を伝播してくれた本郷麻衣は神威を持った存在といえたのだ。

「…倉橋麻衣になったって、麻衣ちゃん自体が変わらないことは承知している。…要は俺の意識って問題なんだが、本郷麻衣は今まで通りそのままで、存在していて欲しいって気持ちなんだ。変な理屈だが…」

「…」

珍しく麻衣は何も語らなかった。
そのまましばらくすると、麻衣は愛する男の胸の中で眠りについていた。
穏やかな寝息を漏らしながら…。


💖💖💖


この夜が、二人でリッチネルを訪れた最後となった。
その後の二人を待受けていた運命はここからたった2週間後、全国にその外輪が明らかになるのだった。
テレビをはじめとする各マスメディアの報道を以って!



💖💖💖


この夜、麻衣と優輔は共に今生の別れを迎えても悔いはないという究極のカクゴをその手にしていたのだ。

優輔はまさに年端もいかないコドモな麻衣の寝顔をじっと見つめながら、婚約を受け入れた時の麻衣の言葉を思い出していた。

「もし、もしよ…私が誰かに殺されるとか…、そこまではいかなくても事故とかで死んじゃった後は、私のこと忘れて欲しいんだよね」

麻衣の気持ち…、それを真正面から受け止めることができた撲殺人のカレ…。
二人はいつ命を失ってもおかしくない危険な道を突っ走っていた。

すなわち二人は、自らの意思で日本を裏社会で牛耳るヤクザ界の全国組織にケンカを売っているという、シビアな状況を十分に自覚していた訳で!!
その行き着く先を予期するが故、世間からはイカレた愛の全うを信じあえていたのかもしれない…。



FIN




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