主役になれないお姫さま
席に戻ると沼田部長の席の近くに新たに席が作られていた。

想像するに一真さんの席なんだろう。

本人はまだ副社長と打ち合わせをしているのか沼田部長を含め戻ってきてはいなかった。

「三浦、頼んでおいた俺の資料ってできてる?」

突然、感じ悪く声をかけてきたのだが、佐々木先輩から資料なんて頼まれていない。

何か勘違いしているのだろうか?

「…すみません、佐々木さんからは何も頼まれていなかったはずですが。」

「は?何言ってんの?休み前にA社に持っていく資料を頼んだじゃねーか。データだってメールしたぞ。」

今朝、メールボックスを確認した際もそんな依頼はなかったはずだ。

「メールですね?確認します。」

もう一度、メールボックスを見てみるが佐々木先輩からのメールは来ていなかった。

「確認なんていいからサッサと営業資料作ってくれない?午後イチでアポとってあるんだよ。データ、USBに入ってるからよろしく。」

USBメモリを机の上に置いてどこかへ行ってしまった。

以前はこんなに傲慢な態度では無かったのに…。
彼と別れてから私への態度が次第に悪くなった気がしていた。

まぁ、今そのことを気にしていても仕方ない。
気持ちを切り替えて資料作成に取り掛かる。

また、文句を言われても嫌なので作成した資料はメール、USBメモリ、印刷したもの全て用意しておいた。これで彼からは何も言えないはずだった。なのに、昼休みに社食から戻ると佐々木くんが怒鳴り込んできた。

「おいっ!三浦!俺が頼んだ資料どうなってんだよ!客先に行けねぇじゃねーか!」

「資料を印刷したものとUSBメモリはデスクの上、外出先でも確認出来るように念のためメールでも送っておきました。」

「出来てるなら先に言えよ!分からねぇじゃねーか!」

そう言うと資料を持って外出してしまった。
呆気に取られて何も言い返せなかった。

 一体、彼はどうしてしまったのだろう??

「…佐々木さんと何かありました?」

同じ営業2課でアシスタントをしている野田さんが声をかけてくれた。

「何か、私嫌われることをしてしまったのかもしれません…。ははは…。」

大事にはしたくないので取り敢えず笑って誤魔化した。まさか別れてから態度がおかしいなんて言えやしない。

付き合っていたことすら誰も知らないのだから…。

「あまり酷いようなら私から部長に言うから言ってね。」

「ありがとうございます。」

野田さんは高校生の息子さんがいる女性社員で、この会社に20年以上勤めている。長年勤めているので沼田部長とも仲が良かった。

第三者から見ても佐々木先輩の態度はおかしいのだろう…。会社で問題を起こしたくないので、佐々木先輩との関わりは最低限にしようと思った。
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