主役になれないお姫さま

疑惑と真実

【side:一真】

歓迎会の日、想定外のやつが詩乃を口説いていた。正確には俺にはそう見えていた。いや、俺は館が良い方だから間違いないだろう。
相手は何度か詩乃の話に出てきた同期の吉川という男だった。
端から男女の友情なんて信じていない。必ずどちらかに下心があるもんだ。
しかし、詩乃には吉川に対する恋愛的な気持ちがないことを知っていたので油断していた。

『申し訳ないが彼女は既に俺のだ。一足遅かったな。』

年下に対して情けないが、思いっきり牽制してやった。
その後も独占欲から、歓迎会を投げ出して詩乃を連れ帰ってしまった。

次の日、スマホのアプリに松山から

【お前には当てはまらないだろうが、女に溺れるのもほどほどにな。】

とメッセージが入っていた。

松山の言う通り、今までは恋人に対してあまり執着しないタイプだった。
過去に付き合っていた彼女たちに対しては、友人との付き合いであれば、男と二人きりでも構わず『お前にも付き合いがあるだろうから行ってこい。』と話していた。

久しぶりにできた恋人だからだろうか…。詩乃に対してはそんな事微塵にも思えなかった。
むしろ、可能であるならば俺以外の男と同じ空間にいて欲しくないくらいだ。

一回りも年が離れているのに、この余裕のなさは情けない。

頭では『冷静になれ。』と考えているのに、マンションの部屋に入ると心が求めるがままにキスをしてしまった。
止まらない口づけに苦しそうにしている詩乃に気づいてやっと心が鎮まる。

お互い出会ってまだ1週間だ。

自分だけが彼女を求め、詩乃は俺がいなくても平気なんじゃないかと思うと気が気じゃなかった。

 …重すぎる感情だ。

『詩乃も俺に夢中になればいい…。もっと俺を求めろ…。』なんて言葉が、自分の口から出たことを今でも信じられないでいる。
思い出しただけで恥ずかしい。

嫉妬と独占欲。俺にそんな感情があったなんて松山に話したら天変地異が起こると騒ぎ立てるだろうな…。自分自身でさえ信じられない。

「吉川か…。あいつをどうするべきか…。」

隣で眠る詩乃を見つめながら敵の事を考える。佐々木と別れても直ぐに行動に移さなかった吉川が俺の牽制を無視して行動することは無いだろう。

「…しかしなぁ。」

気持ちよさそうに眠る詩乃の髪をすくい取り、首の後ろに口をつけるとしっかりと痕をのこした。

「…ぅん?…一真さん?…なに?」

詩乃は寝ぼけた様子でうっすらと目を開けた。

「…愛してる。」

俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む詩乃をさらに愛しいと感じる。

「私もよ…。」

ゆっくりと詩乃の手が伸びて俺を引き寄せると、そのまま二人で眠りについた。
< 18 / 53 >

この作品をシェア

pagetop