主役になれないお姫さま
戻れない未来
「詩乃、おかしなところはないか??」
何度も鏡を見ながら身だしなみを確認している。
「うちの実家に行くのにスーツなんて着なくていいのに…。普段着で大丈夫だと思うよ?」
一真さんのストーカー事件以来、彼の希望で一緒に暮らすことに決まり、今日は両親へ挨拶へ行くことになっていた。
「いや、初めてお会いするからな。詩乃とは歳の差もあることだし、きちんとしないと!」
「うちの両親も10歳近く離れた年の差カップルだからそこは問題ないと思うけど…。」
菓子折りの入った紙袋を手に、一真さんのマンションの地下にある駐車場へと向かう。
ピカピカに磨かれた高級セダンの助手席に座ると、私まで緊張してきた。
マンションから実家まではそんなに遠くはなく車で1時間もあれば充分に着く。
両親はまったく問題ないのだが、実は面倒な人間が家族に1人いた。
大人しくしてて、くれれば良いのだが…。
「お母さーん!ただいまー!」
「あら、早かったわね。」
エプロンで手を拭きながら出迎える母。
「しーちゃぁあああん!!」
母の足元をくぐり抜けて飛びついてくる4歳になる甥っ子。兄の子だがめちゃくちゃ懐いていて、可愛いくてたまらない。
「ひーくん、元気だったぁ??」
「こらっ!光!お客様にご挨拶でしょ!詩乃ちゃん、お久しぶり!それから…、横谷さん、初めまして詩乃ちゃんの兄の嫁の佐知子です。」
ひーくんを追いかけて兄嫁の佐知子さんが顔を出す。
兄の結婚を機に実家は二世帯住宅としてリフォームされていた。
今日、私達がくるのを聞いて兄家族は親世帯エリアに集まってくれていた。
「初めまして、横谷と申します。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。」
「さぁさぁ、どうぞ中へ。」
「お邪魔します。」
リビングへ行くと、父がソファーで寛いでいた。
我が家はここからが問題だ。
パタパタパタ。と廊下を駆けるスリッパの音が聞こえた。
…来たな。
「詩乃っ!お帰り!」
リビングに入るなり抱きついてきたのは正真正銘、私の兄だった。
5歳年上の兄は幼い頃からずっと私を溺愛してくれていた。
どれくらい愛されているかと言うと、目に入れても痛くないと、孫を溺愛するお爺ちゃんかと思うほど…。
兄が大学生になるまでは、どこに行くにも常に私を側に置いて両親に代わって世話をしていた。中学、高校に通っていた頃にはあだ名は『ロリコン』だった。
誕生日やクリスマスには必ずプレゼントを二つも三つも用意してくれるほど。
佐知子さんと出逢うまで、兄の世界の中心は私だったのだ。
「お茶が入りましたよー。」
久々に溺愛している妹に会えて、歓喜の抱擁と頬にキスをする30過ぎた息子の姿を見ても、いつもの事かと動じない母とは違い、一真さんの笑顔は引き攣っていた。
何度も鏡を見ながら身だしなみを確認している。
「うちの実家に行くのにスーツなんて着なくていいのに…。普段着で大丈夫だと思うよ?」
一真さんのストーカー事件以来、彼の希望で一緒に暮らすことに決まり、今日は両親へ挨拶へ行くことになっていた。
「いや、初めてお会いするからな。詩乃とは歳の差もあることだし、きちんとしないと!」
「うちの両親も10歳近く離れた年の差カップルだからそこは問題ないと思うけど…。」
菓子折りの入った紙袋を手に、一真さんのマンションの地下にある駐車場へと向かう。
ピカピカに磨かれた高級セダンの助手席に座ると、私まで緊張してきた。
マンションから実家まではそんなに遠くはなく車で1時間もあれば充分に着く。
両親はまったく問題ないのだが、実は面倒な人間が家族に1人いた。
大人しくしてて、くれれば良いのだが…。
「お母さーん!ただいまー!」
「あら、早かったわね。」
エプロンで手を拭きながら出迎える母。
「しーちゃぁあああん!!」
母の足元をくぐり抜けて飛びついてくる4歳になる甥っ子。兄の子だがめちゃくちゃ懐いていて、可愛いくてたまらない。
「ひーくん、元気だったぁ??」
「こらっ!光!お客様にご挨拶でしょ!詩乃ちゃん、お久しぶり!それから…、横谷さん、初めまして詩乃ちゃんの兄の嫁の佐知子です。」
ひーくんを追いかけて兄嫁の佐知子さんが顔を出す。
兄の結婚を機に実家は二世帯住宅としてリフォームされていた。
今日、私達がくるのを聞いて兄家族は親世帯エリアに集まってくれていた。
「初めまして、横谷と申します。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。」
「さぁさぁ、どうぞ中へ。」
「お邪魔します。」
リビングへ行くと、父がソファーで寛いでいた。
我が家はここからが問題だ。
パタパタパタ。と廊下を駆けるスリッパの音が聞こえた。
…来たな。
「詩乃っ!お帰り!」
リビングに入るなり抱きついてきたのは正真正銘、私の兄だった。
5歳年上の兄は幼い頃からずっと私を溺愛してくれていた。
どれくらい愛されているかと言うと、目に入れても痛くないと、孫を溺愛するお爺ちゃんかと思うほど…。
兄が大学生になるまでは、どこに行くにも常に私を側に置いて両親に代わって世話をしていた。中学、高校に通っていた頃にはあだ名は『ロリコン』だった。
誕生日やクリスマスには必ずプレゼントを二つも三つも用意してくれるほど。
佐知子さんと出逢うまで、兄の世界の中心は私だったのだ。
「お茶が入りましたよー。」
久々に溺愛している妹に会えて、歓喜の抱擁と頬にキスをする30過ぎた息子の姿を見ても、いつもの事かと動じない母とは違い、一真さんの笑顔は引き攣っていた。