主役になれないお姫さま
「かずくん、ボール投げるからとっねー!」

「よーしっ!しっかり投げろよー!」

「あーい!いっくよー!」

すっかり光くんは一真さんに懐いてしまい、叔母としては少しやきもちを妬いてしまいそうなほどだ。

『おじちゃんのお名前おしえてぇ〜』『かずまって言うの?それなら、かずくんだね!』
と、すっかり光くんのペースになっていた。

2人ともすっかりボール遊びに夢中で、一真さんの靴もスーツも砂埃りだらけになってしまっている。子どもと遊びに夢中になる一真さんを可愛いと思った。

このまま彼と付き合い、結婚をして子どもが出来たらこんな感じなのだろうか…。

今日みたいにお天気の良い日に彼と子どもと3人でこんな風に公園に来るのも素敵だと思った。
もし、そんな日が訪れたなら、お弁当を作ってレジャーシートの上で食べるのもいい。

想像しているだけで顔が緩んで口角が上がってしまっていた。

「何をそんなにニヤけてる?」

「んーん、何もないよ。ふふ。」

「隠し事か?」

「違うよ。ほら、ボール遊びしよ!」

転がりっぱなしのボールを拾い上げる。

「光くん!詩乃が何か面白い事を隠してるみたいだ!こちょこちょの刑にして書き出すぞ!」

「おう!わかったぁー!」

「えっ?なに!?きゃーーっ!」

2人に狙われてくすぐられそうになる。

「しーちゃんにこちょこちょだーっ!!!」

今にも転びそうな走り姿で一生懸命に追いかけてくる光くんが本当に可愛かった。

光くんからは簡単に逃げられても、一真さんからは逃げられず捕まってしまい、『光くん!今だ!くすぐっちゃえー!』と、2人にくすぐられてしまった。

公園からの帰り道、一真さんは光くんを肩車していた。
ワイシャツは光くんの靴についた泥で汚れてしまっている。

「さっきニヤけちゃったのは、もし、一真さんと結婚して子どもが出来たらこんな感じなのかな…って想像しちゃったの。」

「…あー。それはニヤけるな。俺もさっきブランコしてる時、詩乃との子どもがいたらって想像してたらニヤけてたもん。」

 一真さんも同じ事を考えたんだ…。

ふと、見上げるといっぱい遊んで疲れたのか、一真さんの頭の上で光くんがコクッ…コクッ…と眠りそうになっていた。

「光くん!そこでねちゃダメよ!落っこちちゃう!!」

「はっ?コイツ寝ようとしてんの?危ねぇな。」

一真さんは肩車からおんぶに体勢を変えると、

「光くん、新幹線で帰るぞー!」

と言って駆け足で実家に戻った。
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