主役になれないお姫さま
【side:一真】

朝から副社長室で来月の営業計画について2人で話しており、報告もあらかた終わったところで松山に話しかけた。

「松山…。聞きたい事があるんだが…。」

「なんだよ、改まってどうした?」

俺が提出した資料を見ながら、秘書が用意したコーヒーを手に取る。

「プロポーズってどうやった?」

松山は飲み掛けのコーヒーを吹き出しそうになり、慌てて口元を拭った。

「お前、ついに結婚するの?結婚したら一生同じ女と付き合うんだぞ??今までの様に自由にできないんだぞ?意味わかってるか??」

疑心暗鬼の目でみている。

「俺だって馬鹿じゃない。そんなのわかってる。」

昔から結婚に対して興味が無かった。
年齢を重ねるごとに付き合う彼女から結婚を匂わす会話が増え、面倒になって別れるのが当たり前になっていた。
その面倒を避けるのに恋人はもう要らないと松山に語っていたのだ。

そんな俺の口から『プロポーズ』というワードが出たもんだから、動揺するのも無理はない。

「…で、どのタイミングでどうやったんだ??」

「付き合った記念日に食事して、帰りに指輪を渡す。至ってベタなプロポーズだよ。」

「指輪のサイズってどうやって調べればいい?」

「あぁ、寝てる間に紐とか糸を指に巻いてペンで印つけて後は宝飾店のお姉さんに任せた。」

「そうか。その手があったか…。」

詩乃の薬指のサイズをどのように聞き出そうか悩んでいたが、この方法なら簡単に出来そうだ。

「大きい分には後で直してもらえるから、悩んだら大きめで買うことだな。」

「そうか。さすが経験者だな。」

そんな会話をしていた時、『コンコン』と副社長室のドアがノックされ、松山の秘書が慌てて入ってきた。
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