主役になれないお姫さま
営業のオフィスに入り、2課のデスクエリアに行くと野田さんが心配そうにしながらも笑顔で迎えてくれた。
「三浦さん、怪我はもう大丈夫??不便なことがあれば何でも言ってね。」
「ご心配おかけしてすみませんでした。色々とお気遣いありがとうございます。」
2課のメンバーには私の流産の話は一切されていないと一真さんは言っていた。
単純に階段から落ちた怪我による入院とだけ告げられているそうだ。
実際のところ、赤ちゃんがいなくなってしまった事自体はとても悲しい事だったが、子どもを強く望んでいたわけでもなく、妊娠していた事すら気付いていなかったので、自分が流産したという意識が薄かった。
流産の処置も意識がないままに終わっていたので、より現実味がなかったのかもしれない…。
沼田部長のところへ突然休んでしまった事へのお詫びのお菓子を持って行くと『副社長と横谷くんから話は聞いたよ。大変だったみたいだな。佐々木の事は気付いてやれず済まなかったな…。』と言ってくれた。
だけど、佐々木先輩の件は、私が誰にも分からなかようにしてきたのだから沼田部長が悪いわけではない。沼田部長を責める気は全く無かった。逆に謝られてしまうと、こちらが申し訳ない気持ちになる。
席に戻る途中にある佐々木先輩のいたデスクの上は私物が全て無くなり、無機質にパソコンだけが綺麗に置かれていた。
彼のデスクの側を通るだけで付き合い始めた頃は胸がドキドキしていたが、今ではあんな最低男と付き合っていたと言う黒歴史になってしまった…。
佐々木先輩の異動先はこのビル内ではなく、我が社の製品を作っている地方の工場勤務となった為、おそらく今後は顔を合わせる事は2度とないかもしれなかった。
地方への異動の理由を『親友を殺人犯にしたくない。』と先ほど乗り合わせたエレベーターで副社長が小さな声で教えてくれた。
部長への挨拶も終わったので、自分の席に戻り1日のスケジュールの確認など朝の業務を始める。
「三浦、無事で良かった。」
吉川くんはいつものお兄さんスマイルで迎えてくれた。
「吉川くん…。心配かけたよね…。」
「もちろん心配だったよ。救急車で運ばれたって聞いた時には遂に山田に刺されたか!?って思った。」
「あはは、流石に沙織ちゃんはそこまでしないよー。」
「そうだな。何があれば、コレからは直ぐに言えよ。」
「うん、ありがとう。」
「まぁ、俺より頼れる人物がそばに居るだろうから心配はないと思うが…。」
きっと一真さんの事を言っているのだろう。
「そうね、佐々木さんよりかは遥かに頼れるわ。」
「アイツと一緒にするなんて失礼だ!」
「アイツだなんて…。一応、先輩だよ?佐々木さん。」
そう言えば、歓迎会の時に一真さんは吉川くんに対して大人気ない態度を取っていたにも拘らず、気がつくと2人は仲良しになっていた。…と言うよりも、吉川くんが一真さんを崇拝しているかのようだった。
「三浦の表情を見てると、もう、色々と大丈夫そうだな。安心した。」
「うん。もう大丈夫。ありがとう。」
吉川くんにお礼を言うと、仕事の続きに取り掛かった。
一真さんのお陰で、失恋の痛みはすっかり消え去り、そして、痛みの原因だった2人を私から遠ざけてくれた。
私にとって一真さん以上のヒーローはいないだろう。
佐々木先輩に別れを告げられて以来、初めて穏やかな気持ちで仕事を始めた朝だった。
「三浦さん、怪我はもう大丈夫??不便なことがあれば何でも言ってね。」
「ご心配おかけしてすみませんでした。色々とお気遣いありがとうございます。」
2課のメンバーには私の流産の話は一切されていないと一真さんは言っていた。
単純に階段から落ちた怪我による入院とだけ告げられているそうだ。
実際のところ、赤ちゃんがいなくなってしまった事自体はとても悲しい事だったが、子どもを強く望んでいたわけでもなく、妊娠していた事すら気付いていなかったので、自分が流産したという意識が薄かった。
流産の処置も意識がないままに終わっていたので、より現実味がなかったのかもしれない…。
沼田部長のところへ突然休んでしまった事へのお詫びのお菓子を持って行くと『副社長と横谷くんから話は聞いたよ。大変だったみたいだな。佐々木の事は気付いてやれず済まなかったな…。』と言ってくれた。
だけど、佐々木先輩の件は、私が誰にも分からなかようにしてきたのだから沼田部長が悪いわけではない。沼田部長を責める気は全く無かった。逆に謝られてしまうと、こちらが申し訳ない気持ちになる。
席に戻る途中にある佐々木先輩のいたデスクの上は私物が全て無くなり、無機質にパソコンだけが綺麗に置かれていた。
彼のデスクの側を通るだけで付き合い始めた頃は胸がドキドキしていたが、今ではあんな最低男と付き合っていたと言う黒歴史になってしまった…。
佐々木先輩の異動先はこのビル内ではなく、我が社の製品を作っている地方の工場勤務となった為、おそらく今後は顔を合わせる事は2度とないかもしれなかった。
地方への異動の理由を『親友を殺人犯にしたくない。』と先ほど乗り合わせたエレベーターで副社長が小さな声で教えてくれた。
部長への挨拶も終わったので、自分の席に戻り1日のスケジュールの確認など朝の業務を始める。
「三浦、無事で良かった。」
吉川くんはいつものお兄さんスマイルで迎えてくれた。
「吉川くん…。心配かけたよね…。」
「もちろん心配だったよ。救急車で運ばれたって聞いた時には遂に山田に刺されたか!?って思った。」
「あはは、流石に沙織ちゃんはそこまでしないよー。」
「そうだな。何があれば、コレからは直ぐに言えよ。」
「うん、ありがとう。」
「まぁ、俺より頼れる人物がそばに居るだろうから心配はないと思うが…。」
きっと一真さんの事を言っているのだろう。
「そうね、佐々木さんよりかは遥かに頼れるわ。」
「アイツと一緒にするなんて失礼だ!」
「アイツだなんて…。一応、先輩だよ?佐々木さん。」
そう言えば、歓迎会の時に一真さんは吉川くんに対して大人気ない態度を取っていたにも拘らず、気がつくと2人は仲良しになっていた。…と言うよりも、吉川くんが一真さんを崇拝しているかのようだった。
「三浦の表情を見てると、もう、色々と大丈夫そうだな。安心した。」
「うん。もう大丈夫。ありがとう。」
吉川くんにお礼を言うと、仕事の続きに取り掛かった。
一真さんのお陰で、失恋の痛みはすっかり消え去り、そして、痛みの原因だった2人を私から遠ざけてくれた。
私にとって一真さん以上のヒーローはいないだろう。
佐々木先輩に別れを告げられて以来、初めて穏やかな気持ちで仕事を始めた朝だった。