復讐相手の将軍閣下が望むので、専属の侍女としてお仕えすることになりました~溺愛されても餌付けされても、すべてを奪ったあなたを許すつもりはありませんのであしからず~
 椅子に座ると、姿勢を正して室内から持って来た推理小説を読み始めた。

 頁をめくって字を追ってはいるものの、まったく頭に入ってこない。早々に諦めた。

 本を閉じ、ローテーブルの上に(それ)を置いた。長椅子の背に背中をあずけ、頭上の空を見上げる。

 古びた宮殿から見える森は、耳に痛いくらいの静寂に満ちている。

 宰相を訪れて彼と対話をして部屋を出てからずっと、頭の中にあることは一つだけ。そのことをずっと考え、悩み、迷っている。

 わたしは、いったいどうしたらいいの?

 というよりか、どうしたいの?

 そのことばかり考えてしまっている。

 カーディガンのポケットから、小さな薬袋を取り出した。

 今朝、宰相のところに行くのに一応それらしい恰好をした。

 トリスタンのお母様が夜なべしてお直しをしてくれた、ドレスを着用して行ったのである。

 ただ、社交界向きではない。街のレディたちがおめかしするときに着用するドレスだから、デザインも色合いも控えめである。ただ、それがわたし好みにピッタリ合致している。

 わたしが「どう?」と尋ねる度、ウオーレンは「これはいい」と褒めてくれた。
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