復讐相手の将軍閣下が望むので、専属の侍女としてお仕えすることになりました~溺愛されても餌付けされても、すべてを奪ったあなたを許すつもりはありませんのであしからず~
「形あるものはいつかは壊れる」

 侍女長から昇格の知らせを受け取ったとき、格言めいたことを言ってみた。そうすると、彼女はずいぶんと感心していた。

 復讐と憎悪の中で生きているわたしは、これまでだてにいろいろなことをしたわけではないわよね。

 まだ若いけれど、知識と経験は人生の五回分はループとか転生した分くらいはある。

 それはともかく、そんな豪勢な客間を侍女のわたしが使っていいわけがない。

 やはり、これは罠ね。

 わたしがここに呼びつけられたのは、仕返しの為だったのよ。

 もしかして、こういうのことを因果応報っていうのかしら?

 復讐を誓った相手に仕返しをされるなんて。

 それにしても、彼の仕返しの理由は、わたしの理由(それ)とはレベルが違いすぎる。

 ちょっとお酒がかかったくらいで、ほんと小さい男よね。

 あのムダに威圧的で異様な銀仮面は、はったりね。

 あ、そうだった。

 夕食よ、夕食。いまは、そっちの方が大事だわ。

 客間を慌てて飛び出し、食堂に向った。

 石造りの宮殿は、遺跡といってもいほどの古さと威厳がある。

 ウオーレンがエントランスの扉の鍵は不要だ、というようなことを言っていた意味がよくわかった。

 一階におりてからずっと、廊下を奥へ奥へと歩いている。廊下にところどころある開口部には、当然ガラスがはまっているわけではない。しかも、ところどころ壁や開口部が崩れている。

 つまり、どこからでも侵入出来るというわけね。

 あれだけ全力で扉にぶつかった自分がバカみたい。

 歩きながら窓というか開口部を見ると、そこから月と星がよく見える。
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