復讐相手の将軍閣下が望むので、専属の侍女としてお仕えすることになりました~溺愛されても餌付けされても、すべてを奪ったあなたを許すつもりはありませんのであしからず~
 ぜったいに、ぜったいに嘘よ。

 お淑やかでおとなしい少女が、十五歳近く年齢の離れた青年にそんなこと言うわけないわ。

 言うわけない……、わよね?

 なにせ記憶がない。だから、断言は出来ない。

 出来ないけれど、ぜったいに言っていない……、はずよ。

 いいえ。それだけではないわ。

 わたしが、このわたしが彼の初めての口づけを奪ったですって?

 そんなはしたないことを?

 生き残る為や食べる物を得る為に何でもしてきたけれど、身を売ることだけはしなかった。

 だれも買ってくれないとかそういうわけではない。自分の意志で売りたくなかった。

 そんな高潔なわたしが、みずから口づけをしたというの?

 それもまた信じられないわ。

 このわたしが、初対面の青年に口づけをしたわけ?

 いいえ。するわけないわ……、よね?
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