復讐相手の将軍閣下が望むので、専属の侍女としてお仕えすることになりました~溺愛されても餌付けされても、すべてを奪ったあなたを許すつもりはありませんのであしからず~

食べ物のにおいを追ってみる

 制服について真剣に考えていたものだから、食堂の場所がわからないことに気がつかなかった。

 というよりか、自分がいまどこにいるのかさっぱりわからない。

 迷子?

 そうね。こういうのを迷子というのね。

 でも、ちょっと待って。

 そもそも、ウオーレンがちゃんと場所を伝えてくれなかったのが悪いのではないかしら?

 わたしがこの古びた宮殿に初めてやってきたのことを知っているのに、教えてくれなかったのですもの。

 宮殿内のどこに食堂があるのか、わかるわけがない。

 とりあえず、立ち止まって深呼吸をした。

 まずは、精神(こころ)を落ち着けなければ。このままだと、いつまでたっても食事にありつけないわ。お腹の虫が反乱を起こす前に、何でもいいから餌を与えないと。

 そうね。出来ればお肉がいいわね。ああ、魚でもいい。どちらも焼いている方がベストだけど、肌寒いから煮込みでもいいわ。それから、フワッフワのパン。ああ、多少かたくても大丈夫。それをいうなら、日にちが経って石みたいにかたくなっているパンでも大丈夫。栄養不良と不摂生のわりに歯は丈夫だから。あとは、葡萄ジュースね。葡萄酒は美味しすぎてついつい飲みすぎてしまうから、控えるようにしている。だから、葡萄ジュースで充分よ。

 深呼吸を繰り返すことで、じょじょに落ち着いてきた。

 このときになってやっと廊下が明るいのは灯火のせいではなく、射し込んできている月の光のせいだと気がついた。

 んんんんんん?

 これって、もしかして食べ物のにおい?

 そのとき、においがすることに気がついた。

 かすかなにおいが鼻梁をくすぐる。鼻を宙に向け、精神を全集中してにおいのもとをたどる。

 これは、葡萄酒を使って何かを煮込んでいる料理のにおいだわ。

 ということは、肉系ね。そうに違いない。

 トロットロに煮こまれた肉が、脳内に浮かんできた。
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