復讐相手の将軍閣下が望むので、専属の侍女としてお仕えすることになりました~溺愛されても餌付けされても、すべてを奪ったあなたを許すつもりはありませんのであしからず~
「とりあえず、足りなかったわけではなくてよかった」
「ええ、もちろん」

 彼がホッと溜息をついた。

 どういう意味の溜息かはわからないけれど。

 それから、しばらく沈黙が続いた。

 沈黙の中、忘れていたことが嫌でも思い出される。

 すると、途端に意識し始めた。

 居心地まで悪くなってきた。

 なにか言わなければ。あるいは、なにかしなければ。

「ごちそうさまでした。片付けますね」
「いや、きみはいい。先程も言った通り、きみはなにもしない方がいい」

 またしても、「きみはなにもしない方がいい」ですって?

「ところで、今日はどうする?」
「今日はどうする?」
「ああ。乗馬をするか、それとも他にやりたいことがあれば言ってくれ」

 と言われましても……。

 昨夜のことが気がかりで、なにも出来そうにない。

 だから、「いますぐには思い浮かばない」と返答しようとした。

 そのとき、彼が立ち上がって手すりに近づいた。
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