朝なけに
ラーメン屋を出ると、空はすっかり暗くて夜になっている。
ラーメンもやはり中さんがご馳走してくれた。


「どっか行きたい所あるか?」


またそうやって訊かれる。


「中さんと一緒なら、何処でもいいですよ」


「そうか」


そういえば、同じような話を中さんのマンションを出る前にもしたな。
その時とは違い、今はそうやって返してくれる。
本当に、私は中さんと一緒なら何処でもいい。


隣の中さんの手を握り、背の高い中さんの顔を見上げる。


「お前…マジで可愛いな」


繋いでいた手を離されて不安になるが、すぐに両手で中さんに抱きしめられる。
それに、鼓動が早くなる。


「お前、今日はもう帰れ」


「え?」


こんなにも強く抱きしめてくるのに、帰れって?



「このままお前と一緒に居たら…。
そこら辺のホテルにお前の事連れ込んでしまいそう」


「それは…私は構いませんよ?」


「俺がそれは無理つーか」


「私の事好きじゃないから…」


そう言った私の言葉に、中さんはゆっくりと首を横に振る。


「…分かんねえ」


分からない…。
それは私の事を好きじゃないって事が分からない…。
それは、好きかもしれないって可能性もあるの?


「とにかく、今日はもう帰れ」


そう言うのに、私を抱きしめる手にギュッと力が入っている。


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