朝なけに
帰りは、来た時に降りたM駅から1駅離れた駅から電車に乗る。
ラーメン屋からはこちらの駅の方が近いから。



「気をつけて帰れよ」


中さんにそう言われ、はい、と返す。
帰る方向が違うので、乗る電車が中さんと違う。


「もう電車来るから行けよ?」


そう促され、乗る方面のホームへの階段を上るので、中さんに背を向けた。
振り向きたいな、と思うけど。
振り向いたら、きっと帰れなくなる。


なんとなく、今夜は大人しく帰る方がいいのだろうな。
さっき、私に対する気持ちがよく分からなくて、中さんは困っていて。


中さんを、困らしたくないなって。



ホームに行くとすぐに電車が来て、それに乗り込む。
出発する直前、二つ向こうのホームに中さんの姿が見えた。


声は届かないから、大きく手を振る。
それに気付いた中さんは、遠くからでも笑っているのが分かる。


電車が出発して、中さんの姿が小さくなって行く。
なんだか、これが最後じゃないのに、中さんとの別れにとても胸が痛くなった。


< 107 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop