朝なけに
「この子に、中より何がそんなに一夜がいいのか、って訊かれたけど。
そんなの、私が知りたい…」


今まで感情的にならなかった真湖さんが、初めて感情を現したような気がした。
声がほんの少し、震えている。


「加賀見一夜は、大した男じゃなかったから。
私に優しくして、好きにさせて。
初めから私と別れるつもりなのに、無責任に付き合って。
付き合ってる時も私にはいつか他の男と幸せになって欲しいとかさ、自分に酔ってるとしか思えないような言葉並べてさ」


その言葉を聞いて、真湖さんが先程私の言葉に腹を立てた理由が分かった。
中さんには私じゃなくて真湖さんと幸せになって欲しいとか、一夜さんと似たような台詞を口にしていたから。



「一夜、お金は凄く持ってたけど、それだって自分で稼いだお金なんかじゃなくて。
毎日、殆ど何もする事なく部屋に籠って過ごしていてさ。
不健全で。
言ってる事も嘘ばっかで…。
カッコつけでキザで…。
本当に、あんな男の何が良かったのかなんて分からない」


真湖さんはそうやって一夜さんを悪く言ってるのに。
どれだけこの人が一夜さんを好きなのか分かった。
中さんが真湖さんの心の隙間にさえ入る事が出来ない事も分かってしまう。
そもそも、そんな隙間なんてないのだろう。


「なに勝手に死んでんの、って感じ。
いっそのこと私が一夜を殺してやれば良かった」


ごめんなさい、と思ってしまう。
真湖さんの気持ちに土足で踏み込んでしまって。



< 115 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop