朝なけに
翌日、ベッドの中で相変わらず泣いてばかりで、大学は行く気になれなくてサボるが、
仕事はべつだと思い、千里さんのお店には少し遅刻したが出勤した。


「お前、なんだその顔?」


ヘアメイクをして貰い、メイク室から出てすぐに千里さんと顔を合わせた。
千里さんは今来たばかりなのか、メイク室の横がオーナー室になっていて、ちょうどそこに入ろうとしていた。


「顔…」


多分、泣き腫らした目の事だろう。


「目の病気か?
それとも、泣いたのか?」


千里さんのその反応だと、夕べの事は知らないのか。
知ってたら、私が中さんの事で泣いたのだとすぐに気付くだろう。


「…昨日の夜、泣ける映画を観てしまって。
大号泣でした」


目の病気の方は、追及されたらボロが出そうなので、素直に泣いた事を伝えた。
その理由は嘘だけど。


「お前、映画観ながら寝そうなのにな?」


そう鼻で笑われて。
その言葉で、中さんとのデートを思い出した。
映画館で私はすぐに寝てしまって。
その前の夜も、深夜にやってた洋画を観ながら寝落ちして…。
つい一昨日とかの話なのに、なんだか懐かしい。
目の奥が熱くなってくる。


「お前…なんで泣いてる?」


そう言われて、泣いてる事に気付いて慌てて手で涙を拭おうとすると。


「馬鹿か、化粧落ちんだろ?」


その手を、掴まれる。



「お前、今日はもう帰れ?
帰って好きなだけ泣け」


「いえ!働けます」


「そんな顔で働くな!
オーナー命令だ!」


そう強く言われて、もう言い返せなくて。



「…ありがとうございます」


千里さんのその優しさに感謝した。


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