朝なけに
近くに停めてあった黒いミニバンの後部席にその人と乗る。


「幸太(こうた)さん、車出しますね」


前の運転席にもう一人男性が乗っていて、私を何処かに連れて行こうとしている男性にそう話す。


「ああ」

幸太と呼ばれたその男性は、車が動き出すと私が逃げない様に掴んでいた手を離した。


「あの…一体何処に?」


恐る恐る訊いてみる。 


「にしても、加賀見の趣味はこんなガキか」


私の質問には答えず、腹筋を揺らすようにクククと笑っている。


「ガキ、俺は気が短いから、もう黙ってろ」


脅すように睨み付けられ、悔しいけど。
怖くて、ギュッと口を閉じた。


車は暫くすると、止まる。


「おい。着いたぞ」


幸太はそう言って、ドアを開けて車から降りる。
私もゆっくりと車から降りた。


辺りを見ると、人通りも多くて助けを呼べば誰かが助けてくれるかもしれないけど。
なんとなく、そんな事はしない方が賢明なのだろうと思う。


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