朝なけに
「あ、あの、中さん?」


思い切って、声を掛けてみる。


「なに?」


不機嫌そうにこちらを見られて、それに少し怯んでしまう。



「助けて頂いたみたいで、ありがとうございます」


「は?別にお前ら助けた覚えねぇし」


「そうだとしても、ありがとうございます」


中さんは、何かの取り締まりか何かで、今この場に居るのだろうけど。
私と萌香は中さん達が来てくれなかったら、この後どんな目に遭っていたか分からない。


「ああ…」


二度目のお礼は受け入れて貰えたみたい。
険しかった表情を崩してくれて。


ドキっ、とその瞬間した。
そして、ドキドキと胸が高鳴り出す。


「えー、中君にだけ?
俺と千里君にはありがとうとかないの?」


照さんがそう割って入って来て、中さんはまた不機嫌そうな表情に戻る。


「つーか、お前らとっとと帰れ、ガキ」


ヤクザのような風貌の千里さんに睨み付けられ、怯んでしまう。
私と萌香にさっさと帰るように促して来る。


「あ、あの、今夜の代金、私達は払わなくていいのでしょうか?」


「払えんのか?」


私の言葉に、中さんは少しからかうようにそう返して来る。
そうやって中さんの視線が私に向くと、胸がまたドキドキとして。


「あ、あの、中さん!
LINEとか教えて貰えませんか?」


もう自分でも無意識で、そう言葉にしていた。
その私の言葉に、中さんだけじゃなくて、この場に居る全員が、は?って顔をしている。


「…LINE?」


中さんはしかめっ面でおうむ返ししてくる。


「そう。LINEです。
私、中さんに一目惚れしたみたいで。
いえ、一目惚れというよりも、実際は二目惚れみたいな感じなんですけど。
なんだかさっきから胸がドキドキと痛くて…。
中さんが好きです!」


私のこの人生の中で、初めての恋かもしれない。


異性に対して見ているだけで、こんなにも胸が熱くなるなんて。
いや、テレビの向こうのアイドルや俳優には、こんな感情を抱いた事はあるけど、ここまでその気持ちは大きくない。

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