朝なけに
「…中さんの好きな女性について詮索した事に対しては、
悪い事したと思ってます。
そうやって思っているのに、知りたかった」


大好きな中さんの思う女性。
その女性がどんな人で、中さんとどんな関係なのか…。


「…ごめんな」


何故か急に謝られ、え、と思ってしまう。
だって、謝るのは私の方で。


「昨日の夜、真湖と会ってた」


「…真湖?」


まこ、というその名を反芻して、それが女性の名前だと気付く。
そして、それが中さんの一番目の女性なのだと気付いた。



「お前分かってたんだろ?
昨日、真湖に誘われたからお前との約束を断った」


分かっていたけど、そうやって言葉にされると、胸がズキズキと痛くなる。
もう聞きたくなくて、耳だって塞いでしまいたい。


「お前の方が先に約束してたのに、それなのに悪かった」


「もういいです!
だって、中さんは真湖さんの事好きなんですよね?
それなら、そちらを優先したい気持ちは分かります」


そう言って中さんの顔を見ると、私よりも傷付いたような顔をしている。
私に対しての罪悪感もそうだけど、その真湖さんとの恋が中さんの一方的で辛いものだから、そんな表情なのだろう。
中さんがそうやって真湖さんを優先しても、真湖さんは中さんに振り向いてくれない。


「自分でも分かってんだけど。
馬鹿みたいだ、って」


そうやって分かっていても、中さんは真湖さんが好きなのだろう。


「真湖さんは、お兄さんの恋人だったのですよね?」


「ああ。最後は別れてたみたいだけど…。
真湖はずっと兄ちゃんの事が好きだったみたいで」


中さんの言った"最後"は、中さんのお兄さんの加賀見一夜さんが殺された事だろうか。


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