朝なけに
「兄ちゃんの49日に、兄ちゃんが殺されたホテルの前で真湖と出会ったんだけど…。
そっから、仲良くなって…」


「好きになったのですか?」


「ああ。わりとすぐに好きになってた…。
初めは、酔った勢いだった。
俺はそこまで酔ってなかったけど、真湖は凄い酔ってて。
もう俺と兄ちゃんが分からないくらいで。
俺と兄ちゃん、顔がけっこう似てるから。
俺を兄ちゃんだと思っているアイツに抱き着かれ…。
そのまま、真湖を抱いた」


大好きな中さんからそうやって他の女性に対する恋心や、抱いたという事を聞いてとても苦しいけど。
この苦しみは嫉妬とかじゃないような気がした。
大好きな中さんがそうやって苦しんでいる事が、私も辛いのかもしれない。


「二度目から、酔った勢いとかじゃなかった。
けど、アイツ俺に抱かれてる時ずっと俺の事を"一夜"って呼ぶんだよ。
一夜、一夜って。
一度も、俺の名前を呼んだ事なくて…。
俺は兄ちゃんの身代わりで」


真湖さんは、中さんの事をお兄さんの代わりにしているんだ。
代わりというより、真湖さんにとったら中さんはもうお兄さんの一夜さんなのかもしれない。


「真湖さんは、中さんの気持ちを知ってるんですか?」


そう思っていたが、中さんの気持ちを知っていてそうしているなら、それって…。


「言った事ねぇけど、分かってると思う。
酷い女だろ?」


酷いと思うけど、その言葉に頷けない。
なんとなく、中さんの好きな女性を貶したくないと思った。


「この先、何年続けても真湖が俺を好きになる事はないって分かってる。
分かってんのに、好きな事を辞めらんなくて…。
って、俺を好きだって言ってるお前に聞かすような話じゃないよな」


そうやって、私を傷付けている事も気にしてくれるんだな。


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